比翼連理
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コツコツと規則正しい音を立てながらプロメテウスは螺旋に続く階段を上る。山の頂に造られた天空に浮かぶ城。
その城下を一望できる場所に到着し、見下ろした。右手の門扉から中へと続く道はひどく破壊されていた。
「―――敗れたか。アトラス」
冥王の軍門に下った双子神の力は侮れぬものだな、と小さくほくそ笑みながら強く吹きつけた風に身を委ねる。漆黒の髪を靡かせ瞳を閉じる。
―――すべてを見透かすかのような蒼い瞳が私を見つめていた。
己自身が危惧していたことではあった。
会えば決心が鈍るのではないかと。
奇蹟の命の片鱗を消さなければならないことを恐れてしまうのではないかと。
―――愛し続けた人間。
けれどもペルセフォネを手に入れるためには消し去らなければならない、一人の人間。ペルセフォネを得るために、必要な過程であるならば……やむを得まいと決心したことだった。
完全なる目覚めを促すためには必要なことだから。ペルセフォネが目覚めなければ『彼ら』に未来はないのだから。わたしはそのためならば、何者にだってなろうと誓った。
たとえ、神々のすべてを敵に回しても、ペルセフォネを手に入れてみせる。たとえ、ペルセフォネの姿をした愛すべき人間であっても……その命を奪ってみせようと。
だが。
「おまえは私の知らぬ存在。だが…..ペルセフォネの姿をしたおまえを…..私は傷つけることなど―――できない」
右手の人差し指に嵌るステュクスの指輪が鈍く光るのをプロメテウスは見つめた。永劫の鎖……ゼウスの呪いの指輪が嘲笑っているかのようだ。そして冥王に与えられた深い傷からは真紅の血が今も流れ出ている。
それ自体がまるで意思を持つ生き物のように固体の命を奪わんと脈打ちながら。だが、それは叶わぬこと。命を奪われることは決してない。
我が身は滅びることの無い不死の肉体。
忌まわしい肉体。
だが、きみならば―――。
きみと出会ったことも、きみを失ったことも、そして再び出会う瞬間でさえもすべてが仕組まれた罠だとしても。
―――きみは
我が願いを叶えてくれるだろう。
―――そして
きみはすべての希望の種となる。
時は満ちていく。死神はもうそこまで迫っている。
彼女も聖闘士を率いて我が元を目指している。
海皇も動いたか……。
冥王も再び舞い降り、必ずや我が前に立ち塞がるだろう。
その時『おまえ』はどう動く?
天の玉座にて沈黙するか。
それとも―――。
クスリと小さく笑みながら大きく両手を広げる。プロメテウスの身体を紅い焔が揺らめいた。
「我が同胞たちよ……客人が訪れた。丁重にもてなして差し上げようぞ」