比翼連理
25. 闇ノ質
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「錚錚たるメンバーでのお出迎えとは痛み入るな?」
行く手を阻むように現れた者たちを銀色の瞳で睨めつけ、一定の距離を保つ。タナトスの夜の一族と匹敵する力を持つ、ティターンの一族たち。
「アトラスを破るとはさすが死神。だが、これより先へは一歩も進むことは許さぬ」
「テミスの策略に手を貸したおまえが、何故今頃になって我々の邪魔をするのだ?」
「今になって冥王に忠義立てても仕方あるまいに」
「―――違うわよ、コイオス。死神はあの男の支配下にあるのよ。可哀想にきっと無理難題を押し付けられたのね。オリンポスの神の恥知らずな傲慢さは相も変わらずなのよ」
「なるほどな。ポイベの言うとおりかもしれん」
口々に囃し立てる言葉にも動じず、ふんと鼻で笑うタナトスは厭そうに顔を歪めたティターン一族たちを眺め見る。
「偉大なる冥府の王の腕から抜け出した者たちよ。首尾よく逃げ出し、我が世の春を味わおうとしたのだろうが、とんだ計算違いが生じたようだな。反抗期の子供に為す術もなく押さえつけられ、良い様に手駒にされて。よっぽどおまえたちのほうが哀れではないのか?フッ」
鷹揚に両腕を組みながら睨めつけるタナトスの姿にティターン一族たちは気色ばんだ。
「我ら一族を愚弄するか?」
「そうであろう?裏切られ、冥府の闇に落とされた貴様たちが苦しみに喘いでいた間、あの男はのうのうと、この世界にのさばっていたのだぞ?哀れというよりはむしろ無様というべきか?」
嘲笑するタナトスに歯軋りをしながら凶悪なまでの眼差しをぶつける。
「くくくっ……ぞくぞくする。嬲り殺しにしてやりたいといった目だな。相手になってやる……さぁ、来るがいい」
「一神で我ら全員を相手にすると?」
あざ笑うような冷ややかな言葉を発して、前に進み出た男は先ほど討ったアトラスとよく似た男であった。
―――イアペトス。
そしてその背後に立つのはアトラスの残る兄弟たち。だが、肝心のプロメテウスの姿は見当たらなかった。ちっと舌打ちながら、鷹揚に腰に手を当てて胸を反らせる。
「その通り。たかがおまえたちティターンなど我ひとりで十分よ」
「まこと憎憎しさはあの男に勝るとも劣らぬな。全員で相手してやりたいのは山々だが、どうやら汚らわしいオリンポスの女狐も到着したようなのでな。―――行け、おまえたち」
くいっと顎をしゃくり、背後にいたイアペトスの息子やその他のティターンたちの姿がすっと大気へと溶けていった。
「さて、始めるとするか?我ら五柱が貴様の相手をしてやるのだから、喜ぶがいい」
「それはそれは。かたじけない。これでいいか?くくくっ……」
「ふざけた男だ」
にやりと不気味に笑ったイアペトスから不気味な闇の触手が伸びていく。
なんと醜い闇なのだろうとタナトスは思う。同じ闇でもこうも質に差が生じるものかとタナトスはほくそ笑んだ。
「やはり……あの御方の闇はほんとうに素晴らしく、美しい……」