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比翼連理

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-2-

 ハーデスは感じ取る。
 光球の中に紛うことなく、求め続けた意識が存在していることを。そして、もうひとつの意識もまた同時に存在していることを。
 互いに争っている。いや、それは争いというよりは論議を交えているというべきもののようである。

 ―――神と人間の対話。

 ふたりが何を話し合っているのかはわからぬ。
 ただ、己が為すべきことを果たすのみ。

 不意に、光球めがけて放たれた力。ハーデスは前に踊り出るとその攻撃を消滅させた。光球の中にいる者を傷つけられるわけにはいかない。
「――――随分と手荒なことをする。アテナよ」
 音もなく、ハーデスの位置するところから左前方に現われた戦女神を見据えながらハーデスが咎める。
「ペルセフォネを目覚めさせるわけには…….参りませんので」
 凛と気高い声を響かせ、複数の黄金聖闘士たちもアテナに伴って現れた。
「アテナ!?あの中にはシャカがいます。攻撃はおやめ下さい!!」
 タナトスの結界の中からムウが叫ぶ。チラリとムウを眇めたアテナはほんの少し顔を曇らせたが、すぐにハーデスに視線を定めた。
「地上を守るのが私の役目。その破壊の力を止めなければ、地上に明日はないというのであれば、私は迷う事無く阻止します。たとえ……たとえ、シャカの命を奪う結果になるとしても!」
 聖杖を握り締め、唇を噛み締めるアテナを見遣り、その揺ぎ無い決心を冷めた瞳でハーデスは見た。
「嘆きの壁を破壊したように、再び黄金聖闘士を使う……か」
「………」
「沈黙は肯定なり……か」
 ふっと皮肉めいた笑みを浮かべたハーデスは更に言葉を重ねた。
「一度ならず、二度までも仲間の手にかかるとは、よほどシャカとは因果な人間だな。アテナ・エクスクラメーションとかいったか?あの技を鬼畜にも劣る行為として禁じていながら、黄金聖闘士全員でもってシャカを殺そうとする、その行為をどう評すればよかろうか……おまえたちのいう正義とはなんと矛盾多きことよ。のう?タナトス」
 結界を解いた後、ハーデスに付き従うようにすっと傍に降り立った死神に告げる。フッと口端を軽く挙げ、笑みを浮かべるとハーデスに同意するかのようにタナトスも嘲弄した。
「まこと、ハーデスさまの仰られる通り。ハーデスさまの御業を邪魔するというのであれば、おまえたちの相手は冥闘士たちが請け負おうぞ。再びの聖戦、今度はどちらが勝ち残るか―――楽しみなことだ」
 タナトスの言葉を合図に次々に現れ出でる冥闘士の姿。惑う事無く聖闘士たちに向かってくる冥闘士は四界きっての統率力を誇り、長年宿敵として戦い続けてきた相手。
 苦々しげにアテナの顔が歪む。
「どうあっても、私たちの……私の邪魔をなさるのですね、貴方は。ハーデス、貴方にすれば地上が滅することは望むべくことでしょうから」
「―――邪魔?邪魔をしているのはおまえではないか。地上がどうなろうと余には関係ないことだが、余とあの男との決着に小娘が口をはさむでないわ」
 冷ややかに言い放つハーデスに、くっと唇をアテナは噛み締め、睨み付けた。既に聖闘士と冥闘士の再びの戦いが始まっている中で、神々は一つ高みから覗くように、ゆるりと会話を続けていた。
「古来より、いがみ合うオリンポスの神々か……まこと哀しき者たちよな。この時にあっても争うか。さて、君たちが争うのは良いが、私とて為さねばならぬことがある。ハーデスよ、おまえとの決着をつけるべき時だと私は思うのだが」
「元より……そのつもりだ」
「おまえと私、どちらが勝負に勝つのであろうな?」

 ―――どちらがペルセフォネを得られるであろうな?

 そう暗に含むような言葉を受け止めながら、静かに、だが確実に互いの殺気を立ち昇らせた。周囲に広がっていく強大な小宇宙。
 その激しい熱量は聖衣や冥衣でさえも焼き尽くすかのように聖闘士も冥闘士も感じた。遅れて現われた海皇もその凄まじい熱量に顔を歪め、アテナを諭す。
「ここから一刻も早く立ち去れ、アテナ!聖闘士たちを冥闘士などと争わせている時間はないぞ!」
「ですが―――シャカを…ペルセフォネが目覚める前に滅しなければ」
「あれは……恐らく天球。だとすれば、人間ごときの力で破壊などできない。たとえ貴女の聖闘士の力を以ってしても、貴女の奇跡の力を以ってしてもだ。破壊できるのは定められし者だけだ……貴女でも、私でもない……あの中にいるものだ。それにもう―――遅すぎた。天球の力は始動している。貴女も感じるであろう、あの鼓動を」
 小さな波動が少しずつ、水面に生じた波紋のように周囲へと広がるが如く、大気を震わす。不意に、宇宙から大気を突き抜け侵入してきた火球のように、光の筋が大地へと勢いをつけて伸びた。
 その光が大地に届いたあと、カッと空を朱色に染め、大地が悲鳴をあげたように轟いた。すべての者が動きを止め、その破壊の凄まじさに息を呑んだ。
「アテナよ、あれが『天球』の力だ」
「てん……きゅうの…ちから…?破壊者の力ではないのですか?」
「破壊者は天球と相反する力を持つのだよ、アテナ…」
 舞い上がる炎気に身を包みながら、プロメテウスはそう告げた後、ハーデスへと力を放つ。ハーデスもまた、真っ向からその力を受け止め、プロメテウスへと向かった。



作品名:比翼連理 作家名:千珠