比翼連理
-3-
幾度となく、ぶつかり合う二つの力。
周囲にも波動が及び、被害を与えていたが、互いに互いの姿しか映っていないようであった。
そして。
まるで、天が崩落するかのような音が轟き、網膜を焼くほどの閃光が突き抜けた。一瞬何が起こったのかわからず、争いあう者たちは動きを止め、目を瞠った。
雷光が纏わりつく光球の傍にあった黒き闇と紅き焔が、まるで大翼を広げ空中で互いのテリトリーを争いぶつかり合う大鷲のように、血風を撒き散らしながら、もつれ合って堕ちていった。
倒れたままのハーデスを尻目に、血を吐きながらも立ち上がったプロメテウスは冥王の剣を腹部に刺したまま大きく跳躍し、光球に視線を向けた。
「――――おのれ、ゼウス……!」
残光の中、ゆらりと立ち上がるひとつの影……いや光をプロメテウスは見た。
「あれは!?……シャカ?」
揺らめく人影にアテナが思わず声を上げた。
「違う……あれは…あの力は……」
――最後ノ仕上ゲニ、協力シテヤロウ。
ペルセフォネガ、余ニ献上シタ真ナル力ヲ、
見ルガイイ……。
その遠く懐かしい声の主にアテナは目を瞠りながら、その光景を見る。凶悪で美しい笑みを浮かべながら、光球を呑み込もうとするその力はまるで星々を呑み込むブラックホール。
「―――させぬっ!」
踊りかかったプロメテウスを冴え渡る蒼き瞳が見つめた。一瞬、躊躇し怯んだそのとき、再びの衝撃が訪れた。
まるで川面に流される木の葉のように堕ちて行ったプロメテウスはそれでもなお、立ち上がった。
―――今ガ好機ゾ、殺ルガイイ。ポセイドン、アテナ。
はっとしたようにポセイドンはプロメテウスに向かったが、アテナは立ち尽くしたままだった。
「プロメテウス!覚悟!」
躍り出たポセイドンの三叉の鉾は確実にプロメテウスの核を捕らえていた。しかし、立ち塞がったハーデスによって受け止められた。
「―――下がれ、ポセイドン。余の邪魔は……許さぬ」
「しかし……!」
「これは余とプロメテウスの戦い」
鋭い眼差しでポセイドンを制すと右手を天高く掲げた。ズズッとプロメテウスの腹部から冥王の剣が意思を持って動く。
「うぐぅ……がはぁっ!」
激烈な痛みに顔を歪めながら、プロメテウスは冥王の剣に手をかけて一気に抜き取った。
大量の血を吐き、また腹部からは止め処もなく流れる鮮血。
よろりと姿勢を崩しながらも膝を屈することのない、その屈強な精神を持つ男の姿を静かに冥王は見つめた。
くいっと掌を返すと、プロメテウスの手から愛剣は離れ、ハーデスの元へと舞い戻る。シュッと空気を切り裂き、跳躍するとハーデスは再び攻撃を開始した。
激しい力により徐々に光球へと押しやられていくプロメテウス。
ちらりと目端で捕らえた光球の変化にプロメテウスは顔を歪ませた。
―――このままではゼウスの力に取り込まれてしまう。それだけは阻止せねば。
「アテナよ!あの者を消せ!!おまえが地上の平和を願うのであればっ!!」
声を限りに叫ぶ言葉を受けて、アテナは固唾を呑んだ。ほんの一瞬だが隙が生じた結果。
「先見の目を持つ者よ。この戦いの先に何が見える!?」
「!?」
深々と突き刺さるハーデスの剣。
それは確実にプロメテウスの核を捉えていた。
苦痛に顔を歪ませながらもプロメテウスはなお叫びをあげ、アテナを促した。
「ゼウスは……地上を……人間を滅ぼすつもりなのだっ!地上を、人間を愛しているのであれば、あの力を阻止しろっ!!」
ブンっとプロメテウスは持っていた杖をアテナに投げつける。その杖の先にはアテナから奪った力の源もあった。
戸惑いの表情を浮かべながらも、それを手に取ったアテナは己の身体の中に力を導いた。