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比翼連理

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 瓦礫の山と化した城の中心に降りていく光。
 時折、崩れた城壁の石に足をとられながらも、懸命に光の源へとアテナは走った。少しずつ、小さくなっていく光を決して見失わないようにと。
「シャカ……!?」
 淡い金色に輝く光の源に駆け寄りかけたアテナの足が止まった。双子神が行く手を阻むといよりは、まるで守るように立ち塞がっていたのだ。
「ヒュプノス、タナトス……」
 一瞬身を堅くしたアテナを無表情に双子神は見ながら、すいと左右に分かれ道を開けた。淡い光の中でシャカはその中心にて、腰を下ろしていた。
 そして、その膝上には横たわるハーデスの姿があった。淡く黄金に輝く者はすっと顔を上げ、儚い微笑でアテナを迎えた。
「―――本当に愚かな男です。私を救うために力を使い果たしたのですよ。アテナ」
「シャカ、ですか?」
 思わず確かめるようにアテナは言うと、シャカの姿をした者が困ったように首を傾げて答えた。
「―――私は何者なのでしょうか……私という存在を私たらしめるものは……一体なんなのでしょう」
「そういう、ややこしいことを言うのはシャカだな」
 ぼそりと後でアイオリアが呟くと黄金聖闘士たちは大きく頷いた。
「では、なぜアテナの聖闘士たる私が、この者が再び目を開け、私の名を呼んで欲しいと、希うのでしょうか。アテナの聖闘士であるならば、このまま冥王が目覚めぬことを望むはずなのに。私は……私に残された最後の力を以って、この男に再びの命を与えたいと願うのです」
 そう言うと視線を落とし、そっと愛しむようにハーデスの頬を撫でた。俯いたままのシャカの頬を一滴の透明な涙が零れ落ち、色をなくしたハーデスの唇へと落ちた。
「―――シャカ、あなたがそう望むのであれば、私は止めません」
「アテナ…それは……!」
 思わず、アテナに詰め寄る黄金聖闘士に小さくアテナは笑んだ。
「その双子神を制することができるのは冥王のみ。その冥王は貴方に骨抜きなのでしょうから、地上も安泰といえるじゃありませんか」
「しかし、それでは―――」
 まだ異を唱えようとするムウに向かってアテナはにっこり笑った。
「あなたの冥衣姿も素敵だけれど、その術を解いてもらわないと聖域には戻れませんよ、ムウ」
 ウッと詰まるムウにしたり顔を浮かべると、アテナはシャカの元に近づき、腰を落としシャカの手をとった。
「―――あなたの望むままに。私はあなたの意志を尊重します。これは貴方への……いいえ、『貴方たち』へのせめてもの償いでもあると同時に、恩を着せ、私は狡くも貴方を利用しようとしているのです。ごめんなさいね、シャカ」
「アテナ……」
「私は天界を……父上を敵に回してしまった。今後、争いが生じることがあるやもしれません。そのためにも冥界との太いパイプがあると心強いと思うのです。だから、遠慮は無用なのです。私は狡い女なのですから」
 柔和な笑みを浮かべるアテナにシャカは息を呑むほど綺麗な微笑を浮かべると、小さく頷いた。そして、そっと瞳を閉じると、静かにシャカは小宇宙を燃焼させ始めた。
 その態を受けて、すっとアテナと双子神は後方に下がった。皆が見守る中、さらに輝きを増し、ふたりの姿が光に包まれていく。
 まるで黎明の時を告げる曙の光だと誰しもが思った。
「なんて……綺麗な光―――」
 ほうっと溜息を零しながら、アテナはその奇跡を見つめる。
「なんだかこの小宇宙、あの時にも感じましたね」
「蘇りの瞬間のことか?」
「ああ、おまえも感じたんだ、この小宇宙を」
「てっきりアテナの小宇宙だと思っていたのですが。」
 口々に感想を述べる聖闘士たちに悪戯っぽくアテナは笑むと、あっけらかんと答えた。
「―――私の中にも彼の力はあるのです。それは、ゼウスに操られていたあの破壊の力から私をも守ってくれました。あの時、この力がなければ私はここにいなかったことでしょう。本来なら、彼に返すべきものなのでしょうけれど、そのまま貰っておきます。とても優しくて心地よい小宇宙だから。あ、そろそろ、冥王が目を覚ましそうだわ。わたしたちは一度、聖域に戻りましょうか」
「―――いいので?」
 サガが不思議そうにアテナを見る。アテナというよりはその表情には寧ろ沙織の無邪気さが垣間見えた。
「いいの。二人だけにして差し上げましょう。外野は退散。あなたたちも、冥界に戻りなさい。人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られてしまいますよ?」
 渋々といった感で冥界に戻っていく双子神を見送り、聖闘士たちを聖域に導いた。
「では、ごゆっくり」
 アテナは少女としての沙織の表情を見せながら、ほんの少し羨ましげに光に向かって小さく呟く。光に包まれながら、抱き合うふたりの姿に優しい眼差しを手向けたのち、アテナは静かに聖域に戻っていった。







作品名:比翼連理 作家名:千珠