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Weird sisters story

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Clotho 9




先程から画面と睨めっこしつつ唸っている人の姿があった。
ディスプレイにはX56S――インパルスのデータが映っている。
「仕方ない、これは後に回す。シン、次はX24Sの機動チェックに入ってくれ」
『…了解』
短い応答が消えて、シンがデータバンクを切り替えたのが見える。
インパルスの、その特殊的な合体システムがどうしても上手くいかない。
理論的には全く問題ないはずなのだが、α型、β型、γ型と、それぞれが揃ってエラーを起こしている。
どうしたものか、と悩ませていると、テストルームのドアが開いた。
「変形フェイズでのバグの除去、完了しました」
レイがディスクを数枚持ってきた。
「後で試してみるから、そこに置いていてくれ」
「わかりました。では」
「あ、レイ!」
振り向きかけたレイが足を止めた。
どうにもいい案が浮かばないのだ。
こういう時は誰かに相談した方がいい、というのがアスランの考えだ。
「このシルエットシステムの事だが…」
「はい」
「……どうすれば解消できると思う?」
レイは少しだけ眉を寄せた。
それはアスランでさえ判らない程度に。
「僭越ながら、この問題は解決できないかと思います」
レイの言葉に、アスランはやはり無理か、と項垂れる。
そうなると、このシステムは全て無駄になる。
インパルスは下手をすれば図面上だけの機体になるかも知れない。
「但し、パイロットを特定すれば恐らく機能するかと」
「特定するのか?誰に」
レイはその質問には答えなかった。
アスランに向き直り、口を開く。
「インパルスのデータはその汎用スペックの高さゆえに、誰にでも合うように制御されています。よって」
レイはアスランの方へと寄り、インパルスのデータを引き出す。
「機体コントロールの補助OSを75%カット、反応速度を4から15へ上昇させ、誘導システムの能率を高めます。そしてユニットに応じたフェイズ移行をパイロットが即座に書き換え調整、そうすれば」
「ちょっと待て、レイ!」
アスランの言葉が遮った。
「いくらなんでも無理だ!そんなスピードで反応できるパイロットが居るはずがないだろう!」
驚きを隠せない上官の顔から、視線を外す。
落ちかかる金色の髪の所為で、アスランからはその表情が見えなかった。
「一人だけ…居ます」
「な、」
「…失礼します」
顔を背けたまま、小声でそれだけ言うとレイはテストルームを出て行った。
あまりに急な事に呼び止める暇もなかった。
「こんな馬鹿なスピードなんて…」
だが、ふっと頭に浮かんだものがある。
恐ろしいくらいに成長している、あの――。
『終わりましたよ』
ハッとして顔を上げると、赤い瞳が怪訝そうに画面の向こうに映っている。
完了したのに、次の指示がないのを不思議に思ったらしい。
「あ、あぁ、次は――…」
アスランの声が止まる。
やがてゆっくりと、告げられた。
「シン、もう一度インパルスのシルエットシステムを試してくれ」
『またアレですか』
「少し遣り方を変える。よく聞いていてくれ」
画面の向こうで、訝しみながらも頷く姿が見えた。





アスラン・ザラは目を見開いた。
練習のつもりで試したシルエットシステムの合体。
それが全て上手くいったのだ。
信じられない思いを残し、回線を開く。
「シン、今のは……」
「……やりやすい」
ぽつり、そんな答えが返ってきた。
今までは測定していたスピードがあまりにも遅すぎたという事だろうか。
(尋常じゃない速さなのに…)

『一人だけ…居ます』

彼は知っていたのだ。
シンにとって、最適な速さというものを。
「…シン、今日はもういい。上がってくれ」
それだけ告げる。
思えば、初めて会った時シンはレイの事を気にしていた。
そしてレイは、シンの特性を驚く程よく知っている。
何かあるのだろうか、二人の間に。
話をしているどころか、顔をあわせているところさえ見た事がないのに。
(………………)
そこで、何かが妙に引っ掛かった。

『帰りたく、ないんです…』

レイが初めて吐いた弱音、いや、本音、というべきだろう。
もしかするとこれは、レイが故意に会わないようにしているのではないか。
「シンっ」
テストルームを通り過ぎようとする人物を呼び止めた。
パイロットスーツのジッパーを下ろし、寛げていたシンが振り返る。
「何ですか?」
「お前、レイを知ってるんだよな?」
訊くと、僅かだが息を呑む声がする。
だが直ぐに顔を背けられた。
「えぇ、知ってますよ。…それがどうしたんです?」
「何か、あったのか?」
「っ!」
シンの肩が小さく跳ねた。
やがて、ゆっくりと振り返る。
見せた笑顔は、嘲笑―――。
「何かあったら、どうするんです?」
「……………」
「フェイス権限で、そこまで調べてみるんですか?」
「そんな事は、」
「だったら、口出ししないで下さい」
出て行こうとする。
その肩を、思わず掴んでいた。
「待てっ…」
シンが勢いよく振り返る。
睨みつける、赤があった。
「レイが選んだのはアンタだ!」
叫んだ後に、ハッとして我に返る。
怯えるように震える瞳は、やがてギュッと閉じられ有無を言わせず走り去った。
駆ける足音を、呼び止める事など出来る筈がなかった。
「『選んだ』……?」
その言葉が、アスランの中を駆け巡っていた。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ