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Weird sisters story

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Clotho 10




部屋に着くなり、ベッドに飛び込む。
震える指先が硬質なパイロットスーツの色をしているのを見て、初めて着替えもせずこの格好のままでここまで走ってきてしまったのだと気付いた。
息も整わないまま、自嘲の笑みが零れる。
知っている、この感情は。
嫉妬と呼ばれるものだという事を。
レイが選んだのは、俺ではない。
ずば抜けた頭脳と卓越した技術、そしてエースの肩書きさえ惜しまない、あの―――。
シーツを握り締める指に力が篭る。
ゆっくり息をすると、まだほんの少しだけ、彼の匂いがした。
「…………レイ」
会いたい。会って抱きしめたい。
少し前まで、そうしていたように。
飽きるまでその寝顔を見つめられたように。
思わず泣いてしまいそうになって、慌てて目元を拭う。
少しだけ身を起こすと、シワだらけになったシーツが目に入った。
いつもは…レイが居た時はこんな事にはならなかったのに。
哀惜の念に押し潰されそうになっていると、コール音が聞こえた。
続くあどけない声。
「お兄ちゃーん、忘れ物」
マユだった。
呼びかけている事から、シンがこの部屋に戻っている事は知っているようだ。
だとしたら居留守は無意味。
シンは大人しくドアを開けた。
「はい」
手渡されたのは、赤い軍服。
小さく細い人差し指で胸の辺りを指された。
その辺りの仕草がルナマリアに似てきていると、シンはただぼんやりそう思った。
「普通忘れないでしょ、そんなの!」
「………なんでコレ、忘れてるってわかったんだ?」
「用があってハンガーに行ったら、レイさんに呼び止められて、それで」
シンの瞳が見開かれる。
レイ、だと。
何故、彼が。
「でもなんか懐かしいなぁ。よく忘れたお弁当届けてたよね」
「…あ、あぁ…そうだっけ」
「?どうしたの?」
怪訝そうにマユが覗き込んでくる。
「いや…なんでもない」
心配させまいと、シンは精一杯の笑顔を浮かべた。






アスランから渡されたIDでキーロックを外す。
明々と灯る室内灯に、デスクにうつ伏せになっている姿があった。
(寝てる…のか)
そういえば今朝も寝坊していたし、いいかげん働き詰めで疲れがピークに達しているのかも知れない。
レイはキョロキョロと辺りを見渡すと、ソファに掛けられた仮眠用のブランケットが目に入った。
肌触りの良いそれを手に取り、そっと肩に掛ける。
柔らかな感触がしたのか、少しだけ身じろぐとふっと瞳が開かれた。
「……申し訳ありません、起こしてしまいましたか」
落ちかかる紫紺色の前髪を払い除けると、完全に目を覚ましたのか姿勢を起こした。
「いや、いい」
「コーヒーでもお持ちしましょうか?」
「……頼む」
無表情で言い放つ姿に、また寝惚けているのではないかと思ったが、意外に語気は整っていたのでそうではないと確認する。
肩からずり落ちそうになっていたブランケットを再び手にし、几帳面に畳んでソファに戻す。
そのまま足先を反転させ、予め作っておいたティーポットから褐色の液体を注いだ。
「どう――」
程よい暖かさのコーヒーが淹れられたカップが、レイの指から滑り落ちた。
ガシャン。
ガラスの砕ける音と、レイが驚きに固まるのはほぼ同時。
アスランは、差し出されたカップではなく、レイの手を取ったのだ。
床に零れた液体が広がり、近くにある絨毯にその色を染み込ませる。
だけどレイは、動けなかった。
「な、にを」
寝惚けているのだろうと、そう思い言葉を紡ごうとしたのだが。
アスランが不意に、レイの袖を捲り上げる。
現れた右腕には、生々しく広がる傷痕が残されていた。
「っ、」
「何故消さない?」
アスランの瞳がレイを射る。
問われた言葉の意味が判った瞬間、ビクリと震えた。
コーディネーター程の医療技術ならば、どんな傷痕でも消すことが出来る。
余りに酷い傷でさえ、痕を薄くする事なら可能だ。
だがレイの腕にある痕は、明らかに無処理だ。
意図的に、そうしたのだから。
答えられないでいると、更に問いかけられた。
「それとも、消せないのか?」
この傷を負ったのは、あの時――シンとマユを、命を懸けて護った時。
任務で致命傷を負ったのは、あれが最初で最後だ。
言葉を口にしようにも、喉に支えて出てこない。
逃げるように瞳を伏せた。
「レイ、シンとどういう関係だ?」
「……ただの、戦友です。仲間でもある…」
声が掠れなかったのが幸いだった。
何故、アスランが右腕での傷の事を知っているのか。
少しだけ顔を上げたレイの目に映ったディスプレイで全て判った。
調べたのだ、アスランは。
シンとレイの、過去の記録を。
「では、何故避ける?」
「避けてなど、」
「避けているだろう。俺の世話係を申し出たのも、部屋に戻らず任務に没頭していた事も、何もかもシンを避ける為の理由だったんだろう?」
「そんな、」
アスランは立ち上がる。
反射的に退がるレイは、己の背に冷たい壁が当たるのが判った。
ふと、今まで無表情を貫いていた顔に嘲笑が宿る。
「俺はお前に、いいように使われていたんだな」
「違います!それ、っ!」
言いかけた言葉は、アスランの唇により閉ざされた。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ