Weird sisters story
Lachesis 6
バラバラに散る破片。
どれだけ大きな物だとしても、その元を辿れば小さなパーツから成っているのだという事を改めて知らされる。
ほぼ四角の塊とかしたザクファントムは、炎上しながら海へ落ちる。
煙がよりいっそう立ち昇った。
海面に浮かぶのは、水より軽い装甲の一部だろうか。
『……ウル、アウル、回収だ』
爆発の衝撃の所為か、不通だった回線が繋がる。
そして聞こえてきた言葉に思いっきり眉を寄せた。
「はぁ?」
『急げ。あの損傷ではどこまで水圧に耐えられるかわからないぞ』
「何言ってんの。アレ、ザフトだろ?」
『聞いてなかったのか?脱走兵なんだと…何か機密を持っている可能性が高い』
「そんなの、どうせウソに決まってんじゃん」
通信の向こうから、思い溜息のようなものが聞こえた。
『お前、いくらザフトだからって、敵基地に1機で突っ込んでくる奴がいると思うか?それに、仮に違ったとしても捕虜として何かと役に立つ』
「だったらスティングがやればいーじゃん。僕、もう疲れたんだよね」
『アレは海に落ちたんだぞ』
つまり、水中用に開発されたアビスにしか回収不可能というわけだ。
軽く舌打ちして機体を動かす。
未だ暗い海底に落ちていこうとする塊をカメラで捕えた。
ブーストを噴射すると、海流が後ろに流れるのが感じられた。
真っ白に反射する泡を纏いながら、アビスも降下する。
アームでそれを掴むと、ふぅ、と息をついた。
「で?コレどこ持ってくの?」
『ハンガーで医療班が待機してるらしい』
「げー、本気で助けるのかよ」
『文句を言うな、ネオからもそう指示された』
そう言われては反論の余地がない。
アウルはしぶしぶながら基地へと進路をとった。
「ステラはー?」
『沿岸で待機してる。追撃があるかも知れないからな』
「ふーん」
『………おいアウル』
「んあ?」
スティングの声音が少しだけ変わり、アウルも通信に集中する。
『何を拗ねてるんだ』
「……べっつにー。ただ面白くなかっただけ」
直ぐに判った、あの時、ザフトに強奪に行った時に居た白いザクファントムだと。
なかなか落せなかったアレを、今度こそ完璧に撃破してやろうと思っていたのに。
「…つまんねぇ」
独り言のように呟くと、また溜息が聞こえてきた。
バンッ、と荒々しく机に手が付かれる。
「どういう事ですか、一体!?」
ギルバートは顔色一つ変えない。
冷めているようにすら見える。
「なぜ急に脱走など…、っ!」
アスランは口に手を当て激しく咳き込んだ。
机に肘が付くくらい、崩れる。
「あまり大声を出すものではない。まだ完全には回復していないのだろう」
抑揚の感じられないその言葉に、鋭い眼光を飛ばす。
「貴方は…貴方なら、知っていたんじゃなかったんですか、レイの事を!」
ギルバートはひとつ、小さく息を零した。
背に凭れ、ゆっくりと呟く。
「君は少し、勘違いをしているようだ」
「……何を」
「私は確かにレイの後継人であり、家族だ。だがだからと言って、その者の全ての考えを把握しているとは限らない。君も、そうだっただろう」
「っ、…」
確かに先の大戦中、アスラン・ザラは父を裏切った。
想いの違い、そこから起こる小さなズレが、やがて裏切りという大きなズレにまで積み重なったのだ。
「戦争というものは、家族すら簡単に引き離す。それは君の方が、よく知っているだろう」
「しかし…」
「仕方がなかったのだよ。この間の強奪騒ぎで、今はまだ半数のMSさえ整っていない有様だ。その状態であのレイを捕える事などほぼ不可能だった」
基本、単機で行動するレイのその戦闘力はあまりに大きい。
それに加え、まともに動ける機体が少なかったのだ。
苦々しげに歪むアスランが、ポツリと零した。
「…インパルスなら、シルエットシステムを装備しなくとも、可能だったはずです」
実際、機動テストは完了していた。
残るは微調整と、戦闘をこなし、その都度調整をする段階にまで至っていた筈だ。
ギルバートは瞑目する。
そのまま口を開いた。
「パイロットがいなかったのだよ」
「、え……?」
驚いたアスランの瞳には、嘆く議長の姿しか映らなかった。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ