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Weird sisters story

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Lachesis 8




傍らに居た保安員が軽く息を呑んだ後、慌てたように敬礼をする。
それに取り合わずに、アスランは口だけ開く。
「開けてくれ」
「……あ、はい」
保安員はベルトに装着していた無数のキーの中からひとつを手に取ると、それを差し込みながらパスワードを入力する。
やがて解除された音と共に、ドアが重く開いた。
無言で中へと進むと、再びドアが閉まる。
唯一の光源を失って、そこは薄暗い世界へと変わった。
一歩踏み出すと、足音が反響して返って来る。
ある所まで歩んで、ふと足を止めた。
「……もう動けるんですか」
暗い営倉の中、壁に背を預けたシンがそっけなく呟く。
アスランはその言葉には答えなかった。
「随分な待遇だな。処分は決まったのか?」
「さぁ?俺は何も聞いてませんけど」
面白くなさそうに、シンは視線を逸らした。
その横顔を見ながら、アスランは問いかける。
「……なぜ出撃しなかった」
「アンタまで、そんな事訊くんですか?」
シンは自嘲じみた笑みを浮かべた。
「答えろ、シン」
赤い瞳がアスランを射る。
そしてまた、直ぐに逸らされた。
「シン!」
思わず鉄格子に手を叩きつけた。
冷たい感触と、鈍い音。
それでもシンは答えない。
「……インパルスなら、ファントムに追いつけたはずだ」
「…えぇ、そうでしょうね」
アスランは舌打ちをする。
「ならどうしてそうしなかった!?撃破までしなくとも、説得する余地はあったはずだ!そうすれば、脱走なんて馬鹿な事も」
「『馬鹿な事』…?」
シンが呟いて、ゆっくり立ち上がる。
鉄格子の傍まで、近寄った。
「レイのした事を、馬鹿な事だって言いたいのか!?」
「そうでなくてなんだ!脱走した所でどうする!?地球軍にでも行くのか!?それこそ命の保障はないんだぞ!」
「…そんな…こと、」
「なぜ止めなかったんだ、シン!」
キッと顔を上げる。
赤い瞳には少しだけ、涙が溜まっていた。
「レイがそれを望んでるのに、どうして止める必要があるんだ!」
「…なんだと?」
「あいつが望んだ事…俺は、それを遮りたくない。それが、あいつにとって一番いいんだ」
「本気でそう思っているのか…?」
シンは否定しない。
俯いて、沈黙を護っている。
アスランはぽつりと、零した。
「…俺はレイを止める」
「……………」
「いつになるかはわからないが、必ず見つけ出してこんな馬鹿な事は止めさせる」
カシャン、と、鉄格子から手が離れる音が聞こえた。
そして暫く経つと、足音が響いた。徐々に遠くなっていく。
ドアが開き、光が一瞬だけそこに満ちた。
再び静まり返る営倉に、荒々しく壁に拳をぶつけた。
レイを止める事が出来たのなら、どんなによかっただろう。
あの時、抱きしめた彼から、今さっきまでそこに居た人の香りがした時は、嫉妬でどうにかなりそうだった。
彼は己にない、全ての物を手にしている。
だからあんな事が言えるのだ。
無力な俺には、ただレイの背中に縋る事しか出来なかったのに。
「………ど……して」
掠れた声に、シンはそのまま、力なく膝を折った。






聴覚が、聞き慣れない音を拾う。
まさか、と自問するが、確かにそれはボールの弾む音だ。
覚醒した瞳を開けると、薄暗い天井が見える。
まだ睡眠剤の作用が効いているのか、ふらつく身体を起こすと確かにそこは営倉だった。
「すまんが、これも掟でね」と呟くネオに、睡眠剤を投与された所で記憶は途切れている。
確かにザフトの兵士を、覚醒した状態で営倉へと連れ込むのはいささかリスクが付きまとうだろう。
レイは重い頭を働かせて、先程から聞こえる音を確かめた。
地に足をつけ、様子を窺えば、闇に慣れてきた目がひとりの少年を捉えた。
青い髪の少年が、バスケットボールを手に構えている。
別に誰か居るのかと探るが、そんな気配はない。
と、少年はシュートする動作をした。
高く飛んだボールは、壁に施されている地球軍のマークの真ん中を射た。
そのまま跳ね返り、鉄格子に当たったボールは不規則に跳ねて、レイのブロックの前にコロコロと転がって来た。
「…お?」
起きているのに気付いたのか、少年は不敵な笑みを浮かべる。
「へぇー、並みの奴ならまだ寝てるぜ。さっすが、ザフトのスパイは訓練されてるねぇ」
「………………」
レイは暫く少年を観察した後、くるりと背を向けた。
そのまま、適当な位置を見つけて腰を下ろす。
「…なんだぁ?」
少年はボールを手に取ると、器用に指の上でクルクル回してみせる。
そして空いた方の手を格子に掛けた。
「おい、何か言うことあるんじゃねぇの?」
それでもレイは口を利かない。
ずっと顔も合わさず、瞑目している。
不満そうな舌打ちの後、再びボールの弾む音が聞こえてきた。
すっと薄く瞳を開く。
手錠を掛けられた手首に、擦れた痕とは別に、薄く色づいた痕が見えた。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ