Weird sisters story
Atropos 8
ドアを潜り抜けると、途端に騒がしい空気に包まれる。
状況を確認しようとしたその視界に、地球地図を映し出したメインパネルが目に入った。
「な…んだ、これは…」
思わず、声が漏れた。
ザフトの勢力圏内である北半球の、あらゆる場所に軍の進軍を示すマークがあったからだ。
「ロッ、ロアノーク大佐!」
声に気付いたのか、先程の通信兵が振り返る。
「どうした、何なんだこれは!」
「我々にもっ…ただっザフト全軍より、宣戦布告が…」
「全軍だと!?」
声を荒げ通信兵を半ば押しのけるように画面を見た。
ディスプレイには、映しきれない程の開戦を伝える文章が並んでいる。
「本部は何と言っている!?」
「それが…宣戦布告を受けた旨を下した後、通信が断絶していて…。恐らく全地球軍基地からの応答により回線がパンクしたのではないかと…」
ネオは舌打ちをした。
こんな事態など今まで、いや歴史上なかった事だ。
「大佐…我々はどうすれば…」
戸惑うような通信兵の声は、ここにいる全兵士の気持ちを代弁しているも同じだった。
ネオは渋面になった。そして、後ろを振り返る。
「レイ、これをどう見る?」
背後で黙って様子を見ていたレイが、初めて口を開いた。
「さぁ…ザフトが何かとてつもない作戦を持っているか、それでなくてはただの馬鹿だろう。このような事、何の特にもならない」
巧くいけば地球軍全軍をすべて潰せるだろう。
しかしそんな事はほぼ不可能だ。可能性を考えれば、余りにリスクが大き過ぎる無謀な作戦。
「…だが、宣戦布告を受けている。奴等は本気で攻め込むつもりだろう。だとすると、こちらも全面戦争の用意をすべきだ」
「戦うのか?」
「これだけ戦場が大きいのなら、下手な小細工は無駄なだけだ。…数で攻め、前線を押し上げるしかない」
どちらかが尽きるまで、戦いは続く。
レイは顔を顰めた。そのような戦争をして、一体どうするのか。
(ザフトは何を考えている…?)
傍に居た通信兵が、何かに気付いたように声を上げた。
「ま、待って下さい。我々の前にいるのは、敵の本隊です!」
「だからと言って、逃げるわけにもいかないだろう。ここが一番の死線になる。…覚悟を、決める必要があるな」
レイの一言に、通信兵が、その場に居た全ての人間が凍りついた。
「………レイ…」
ネオが驚きに名を呼んだ。
それには答えず、背を向ける。
「戦争をするとは、そういう事だ。今更どうにもできない」
言い残して、歩き出す。
レイの影がドアに消えても、誰ひとり声を発する者はいなかった。
「全部隊、出撃命令…?」
チーフから言われた一言に、思わずヴィーノは問い返した。
「なんで、そんな事!」
「無駄口を叩くな。私にもよくわからんのだ」
そう言うと、手元のデータボードを弄る。
「各班、担当機体のコードを送る。間違えるなよ」
「チーフ、あれは…」
ヨウランが口を挟んだ。
上手く言葉が上がってこなくて、もう一度問いかける。
「あの2機は、どうするんですか?」
「あれはまだ実戦投入の許可が下りてない」
「でも、」
「いいから、時間がないんだ!パイロットの命の半分は、お前たちが握っている事を忘れるな!」
一喝した言葉に、一気に緊張が走った。
「わかったのなら、それぞれ配置に付け!」
整備士が、一斉に走り出す。
ハンガーはいつになく、慌しくなった。
ミーティングが終わった後の部屋に、珍しい人影が残った。
アスランは不思議に思い、口を開く。
「どうした、戻らないのか?」
シンは面倒臭そうに視線を合わせた。
「何処に居たって、同じですよ」
つまり部屋に居てもここに居ても、どうせする事は同じと言う事か。
呆れたアスランは持っていたペンを机に置いた。
頬杖をついて、窓の外に目を遣る。
室内に残った静寂を破ったのは、アスランの声。
「……おかしいと思わないか」
ふっとシンが顔を上げた。
「この戦争に何の意義がある?」
「…そんな事、言っていいんですか」
仮にもフェイスである貴方が、と付け足す。
アスランは、あぁ、と答えると足を組み楽な体勢になった。
「これは特務隊、アスラン・ザラとしての言葉じゃない。…俺個人の考えだ」
「……………」
シンは視線を逸らす。
何も、答えなかった。
アスランは構わず、続けた。
「何か…流れがあるように思える」
「流れ…?」
「誰かがそうなるように、世界を導いているような…」
その言葉に、シンは笑った。
「それが『運命』なんじゃないんですか」
「『運命』?」
「…別に、言ってみただけです」
再びシンは押し黙る。
アスランは暫く考えた後、そっと呟いた。
「『運命』、か…」
それに答える声は、無かった。
作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ