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怪盗スピードスターの初恋

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「言えへんけど無理や! 光、お願いやから!」
「ずるい!」
「光!」
 ああだのこうだの散々言い合い、お互いに息が切れ始めた頃、うらめしげに光は目の前の整った顔を見上げた。
 やっぱり、思ったとおりだ。
「女が出来たんやろ」
 悔しい、面白くない、腹が立つ。謙也に恋人らしき人がいることなのか、それを光に言ってくれなかったことなのかはわからないが、とにかくムカムカして仕方がなかった。
 いつも謙也は光のことを一番そばに置いていてくれたのに、今は距離が出来てしまっていることが無性に癇に障る。でもそんなこととても言えない。それこそ子供のだだのようじゃないか。
「はあ?」
「別にそれならそれでええけど、謙也くん水臭いわ」
「何言うてんの、お前。そんなんおらんっちゅうねん」
「あーはいはい。そんならそういうことにしときましょ。俺、どうせ関係ないし」
「やから、ほんまやって!」
 ぷい、と顔を背けると謙也は慌てたように光の肩をなだめるように撫でた。そんなことで誤魔化されてやるつもりはないが、このまま謙也と離れてしまうのも気に入らない。
 どうしたものか、と表情を変えないまま必死で思案する。なにか、なにかないだろうか、いい方法が。と、広げられたままの新聞が目に入った。
「あ」
「ん? どしたん? わかってくれたん?」
「謙也くん、それ以外なら何でも言うこと聞いてくれるって言うたやんな」
「え、まあ」
「ほんなら、俺に協力してくれる?」
「おお、俺に出来ることなら何でもやったるわ!」
 ぐい、と力いっぱい謙也のシャツの胸元を掴んで視線を合わせる。
「――いっしょに怪盗スピードスター捕まえようや!」



 夜の外出許可を得るために(謙也のようにこっそり抜け出してもよかったのに、絶対に駄目だと言われた)、光の両親に事情を説明すると、思い切り渋い顔をされてしまった。そんな危ない真似を、というのが八割、相手がスピードスターだというのが残りの二割の理由で反対らしい。
 以前、ぜんざいハウスのポストにきらきら輝く大きな宝石が入っていたことがあった。まだスピードスターの名が有名になる前のことである。それはもう天地がひっくり返るほどの大騒ぎになった。
その持ち主が警察に捕まり、財産も差し押さえになったこと、悪事が明るみに出たのが、この宝石を盗まれたときに駆け付けた警察が「たまたま」証拠となる書類を「偶然にも」廊下に落ちているのを見つけたことがきっかけであったことなどから、世間は義賊が悪をこらしめ、小さな孤児院に寄付をした、と結論付けたのだった。
のちに、その義賊は怪盗スピードスターと呼ばれるようになる。
だから、……まあ確かに恩がある相手ではあるのだ。光は納得がいかないけれど。
「泥棒は泥棒やろ。手段を選ばんやり方がほんまに正義やなんて言えるん?」
 光の言葉に、両親は困ったように顔を合わせていた。謙也にも何か言って欲しくてにらみつけてみても、なぜか難しい顔をして黙り込んだままで。
「なんでもええわ、なあ、絶対無茶はせえへんし。報奨金もろたらシャワールームも直せるで」
「光」
「どうしてもあかんて言うなら、黙って出ていくだけや」
 最終的にはこの一言がきいたのか、謙也に迷惑をかけないように、とだけ言い渡され、現場に行くことを許された。
 謙也に迷惑、だなんて、そんなことするわけがないのに。――迷惑、なのだろうか。
「謙也くん、そんなに嫌なん?」
「え、あー……嫌っちゅうか……どうしたらええのんか……」
「なにが」
「うーん……光がわがまま言うことなんかめったにないのになあ。ごめんなあ」
 謙也の話は要領を得ない。ずっとぶつぶつと口の中で言葉を転がしてばかりで、光に話しかけているのかも定かじゃない。それが嫌だった。
 ――いっしょにスピードスター追いかけて、子供の頃みたいに二人でひとつのことがしたいのに。また前みたいに、謙也くんのそばに一番近いのは俺やって思いたいのに。
 どこの誰だかもわからない、謙也の(おそらく)恋人に対抗心をひっそりと燃やしながら、うんうん唸る謙也の後ろ頭を穴があくほど見つけ続けた。



 怪盗スピードスターはいつも律儀に予告を出す。それもなぜか新聞社に「いついつどこそこに盗みに入りますんでよろしく」というような内容の手紙を送り付けるのだ。どうも本人に送っても無視されるから、というのが理由らしいが、ちまたでは「自分の悪事をスピードスターにばらされるのを恐れて、予告状を受け取っても公にしない可能性があるからだ」ともっぱらの評判である。
 実際、スピードスターの情報源を知りたい、というのが警察の本音であり、盗みに関しては捕まえる側も二の次だと思っているようだ。というか、被害にあった者が軒並みなんらかの罪で逮捕、私財没収となっているので、スピードスターの窃盗に関しては被害届も出されていないのである。
 だからって、許されていい問題でもないだろう、と思う光の感覚ではやっぱりスピードスターだって悪者なのだった。
「あー、光、寒ない? あっちのテントに行かん?」
 大きな屋敷の前には野次馬が集まり、テントどころか甘酒や豚汁まで配っている。ちょっとしたお祭り状態だ。屋敷の主だけがせわしなくあちこちに血走った目を向け、何事かをわめいている。
「な、人が多いん嫌やったら、向こうのほうすいとるで! 行こうや」
「はあ、まあ、ええですけど……さっきからなんでそんな必死なんすか」
「え! いや、風邪ひいたらあかんかなって思っただけやで! ほら、行こ!」
 さあさあ、と促す謙也は明らかに不自然でわざとらしかったが、特に逆らう理由もないのでおとなしく引っ張られるままについていく。
 向こうのテント……まあすいてはいるが、しかし。
「謙也くん、こっちって関係者の」
「あれー! 白石やないか!」
 新聞社のマークが大きくプリントされているのに気が付き、謙也を止めようと口を開いた瞬間、それをさえぎるように知らない名前が叫ばれた。
「おお、謙也。どうしたん」
 白石、と呼ばれた男が親しげに笑いかける。腕章を見る限り、新聞社――それもスピードスターがいつも予告状を出しているところだ――の記者のようであるが、そんな相手となぜ顔見知りなのだろう。
 視線に疑問を織り交ぜて、じ、と二人を見比べていると、謙也がすまんすまん、と言って紹介してくれた。
「こいつ、光いうねん。ぜんざいハウスの院長先生の息子や。光、こっちは白石、白石蔵ノ介や。四天新聞の記者なんやけど、ちょっとした知り合いっちゅうか、まあ俺の友達やな」
「はあ、はじめまして」
 よくわからないまま、形式だけのあいさつをするが、白石は愛想よく微笑んでくれた。どうにも読めない人のようである。
「光くんな。お噂はかねがね。会えてうれしいわ」
「噂?」
「もうしょっちゅう、謙也は君のこと話すからな。光がああした、光がこう言った、って」
「謙也くんが?」
 なんだか鸚鵡返しに訊いてばかりだ、と光は恥ずかしくなり(小さい子じゃあるまいし、みっともない!)、こほん、と咳払いして話を逸らした。
「記者さんと、なんで謙也くんが友達なん?」
「ん、まあ、ちょっと」