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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー

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 わざとかと疑いたくなるほどの頻度で失言をするこの女性は、格好からしてどこかの家のメイドさんらしい。シグムントや自分のことを知っている様子から考えれば、城に出仕しているメイドの一人なのかもしれない。
「あのー、ところでメイドさんはどちら様ですか?」
「あっ、失礼しました。ジーナと申します。こう見えても、姫様付きのメイドなんですよ」
 そう言って、ジーナはスカートをちょこんと持ち上げてお辞儀をしてみせた。
「へぇ。フェイエールにはお姫様がいるんだ」
「そうだ。偽物さん、姫様はどちらにいらっしゃるんですか?」
「それを僕に聞くんですか?」
「ええ、だって……。でも、知らないなら仕方ないですね。何も知らなそうな間の抜けた顔してますもんね。……ってまた私、失言を」
「それはもういいですから」
 姫様の居場所はおろか、自分がどこにいるのかさえよくわかっていないのだ。聞かれても困る。
「それより、グスタフは探さなくていいんですか?」
「そうでした! こんなところで馬鹿面並べて自己紹介している場合じゃないんです。グスタフを探さないと!」
 もはやつっこむ気力もなくしたカペルは、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つことにした。
「じゃあ、役に立たない偽物の……」
「カペルです」
「カペルさん。解放軍ご一行は城内におられますのでそちらへ。通りをまっすぐ行けば城門が見えてくるはずです。迷子になったら、そのへんの子供にでも道を聞いてください。それくらいは出来ますよね?」
「はーい」
 ぺこりと頭を下げたジーナは、「グスタフー!」とペットの名前を呼びながら去っていった。あの調子で見つかるのだろうか……。


 城の門番には話がつけてあったようで、カペルは城内にすんなりと入ることが出来た。中はフェイエールを象徴する赤を基調とした調度でまとめられているが、ブルガス城のそれと比べれば幾らか朴訥とした印象がある。暑さ対策なのか、通路にはどこからか涼やかな風が流れ込んできていた。
 案内の兵士に導かれ、解放軍にあてがわれた部屋に通される。ただ、そこにいたのはユージンだけだった。
「やあ、カペル君。無事だったんだね。シグムントが、君たちだけで行かせたって言うものだから心配したよ」
「なんとか帰ってきました」
「じゃあ疲れてるだろ? お風呂でも——」
「遠慮します」
「……そうかい、残念だね」
 いつもは冷静沈着で、あまり感情を読み取らせない印象のあるユージンだが、お風呂の話をするときだけは別人のようだった。何が彼を駆り立てるのか。カペルは想像しないことにしている。
「ところで、アーヤ君はどうしたんだい? ルカ君とロカ君の姿も見えないけど」
「アーヤはトイレに行ったきりです。そのうち戻ってくるんじゃないかな。ルカロカは——」
 そう言って、カペルはルカとロカをモンタナに帰したことをかいつまんで説明した。
「……そうか。それは良い判断だったかもね。次は激戦になるだろうし。戦力として数える分には申し分ないけど、彼らはまだ子供だからね」
 解放軍の参謀としては、扱いに困っていたのかもしれない。眼鏡を指先で持ち上げながらユージンは言った。
「ところで他のみんなは?」
「ああ、もうすぐ“祝福”の儀式が行われるんだ。ヴェスプレームの塔攻略に向けて、首長からの餞別と言ったところかな。みんなは儀式の間にいるよ」
「シグムントさん、また月印をもらうんですか?」
「いや、今回はシグムントじゃない。エドアルドに月印を、とシグムントが首長に願い出たんだ」
「へぇ、シグムントさん、エドアルドに期待してるんですね」
「それもあるけど、今回の戦いは、その、いろいろあってね……」
 ひどく言いにくそうにユージンは続けた。
「フェイエール軍は動かないかもしれないんだ。その代わりという意味もあって、首長自ら儀式を執り行っていただけるわけなんだけど」
 沈鬱な表情のユージンに、カペルは不安を覚えた。封印軍の拠点を十名にも満たない解放軍だけで攻めることになる? どだい無茶な話だ。やはり逃げ出せばよかったか……。
「それが、封印軍の動きが少しおかしくてね……。まぁ、この話は後にしよう。そんなに不安な顔をしなくても大丈夫だよ、カペル君。さあ、僕たちも行こう」
「はぁ……」

 ユージンに促されてカペルは部屋を出た。話によれば、すでに儀式は始まっており、その後の首長との会見に顔を出すことになっているらしい。
 “祝福”の儀式は、ブルガスでシグムントが受けたものを見たのが初めてだった。周りの人は感嘆の声を上げていたが、カペルは逆で、なんとなく忌避すべきもののように思えていた。だから、今回の儀式を見ないでいいのなら、それはそれでありがたいとも思える。
 そんな沈鬱なカペルの気分とは反対に、廊下を歩いていると、どこからともなく大きな笑い声が聞こえてきた。
「がーっはっはっはっはー。サムソン、また付き合えよ!」
「おうよ。お前も腕を磨いておけよ、バルバガン!」
 汗まみれの男二人が握手を交わしている。バルバガンと、もう一人はこの国の兵士だろうか。バルバガンに引けを取らない腕の太さに胸板。焼けた皮膚が黒光りし、無数の傷跡と相まって屈強な印象を見る者に与えるが、同時に暑さを助長するものでもある。
 用事は済んだのか、サムソンと呼ばれた兵士と別れると、バルバガンはこちらに気づいて歩み寄ってきた。
「おう、カペル。ちゃんと帰ってきたんだな。大丈夫だったか?」
「かろうじて生きてますよ、バルバガンさん」
 鍛錬の後だからか、バルバガンは上気した身体から湯気を立てている。疲れも見せず、豪快に笑ってはいるが、何か気になっているのか、バルバガンはあたりを落ち着きなく見回し始めた。
「……ルカとロカはどうした?」
「ママが恋しくなったみたいです。それで、一度モンタナ村に帰しました」
 あらましを説明すると、「そうか……」と一言漏らし、バルバガンは大きく肩を落とした。
 思えば、バルバガンはルカとロカの二人とはすっかり仲良くなっていた。子供を亡くしたという話を聞いたが、彼はその面影を重ねていたのかもしれない。寂しげな表情を見れば、彼に言わずに二人を帰してしまったのが、少し悪い気もしてくる。
「まっ、その方がいいかもな。次の戦は厳しくなりそうだからな」
「またすぐに会えますよ。そうだ、ヴェスプレームの塔なんてちゃちゃっと片付けちゃって、二人をモンタナ村に迎えに行きましょうよ。僕が案内しますよ。だからそんな寂しそうな顔しないで」
「なんだ、慰めてくれてるのか? そんなに寂しそうに見えたのかよ」
「もーのすごく」
「ははは、そうかそうか。……そうだな。封印軍なんぞさっさと片付けて、チビたちに会いに行くとするか! 案内頼むぞ、カペル」
「はい」


 城の最上階に設けられた謁見の間に入ると、首長である炎鳳王シャルークとともにシグムントたちの姿が見えた。“祝福”の儀式はすでに終わったようだ。
「ただいま帰りました」
「よく帰ってきた、カペル」