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らんぶーたん
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novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

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 アーヤが耳を傾けているのを確認しながら、カペルは続けた。
「……きれいな曲」
 演奏を終えると、アーヤがぽつりとそう漏らした。
「この曲のタイトルはね」
「やめて、聞きたくない。どうせ変なタイトルなんでしょ?」
 そう言って両耳をふさぐ。アーヤの言うとおり、今思いついたタイトルは「泣き言を言うための練習曲(エチュード)」だ。
 ……言わない方が良いか。
 目が合うと、アーヤはにこりと笑ってくれた。多少は役に立ったのかな。
 今は難しくても、いつかアーヤは答えを見つけるのだろう。それでいいと思う。その時には、僕も何か言ってあげられるかもしれない。だから、これでその話はおしまいにしよう。
 カペルは大きく伸びをしてみせながら、話を変えた。
「でも、アーヤがお姫様かぁ」
「何よ」
「髪を一つにまとめてるのもなかなか似合うよね」
「そ、そうかな」
「うん。普段と違うから新鮮っていうか。ファイーナさんみたいにちょっと女の子っぽく感じるっていうか」
「……」
「たまには良いと思うよ。アーヤが女の子っぽくしたって何の問題もない……ぐはっ!」
 アーヤの拳がカペルの腹に深く突き刺さった。カペルの身体がくの字に折れ曲がる。あばらの二本くらいは持って行かれたか。
「ア、アーヤさん。な、何か気に障ることを言いましたでしょうか……」
「うるさい! バカペル!!」
「ひどいよぉ」
 身体を折ったまま視線だけを上げてアーヤの方を見ると、彼女が睨む視線をこちらに向けていた。
 いつも通りの彼女の目。さっきまで真剣な話をしていたのに今はこれだ。
 アーヤがお姫様だったというのに、何も変わらない。カペルはそれが急におかしくなって、思わず笑い出してしまった。合わせたようにアーヤも一緒になって笑い出す。
 もしアーヤがハイネイルになったとしたら、こんなやりとりも出来なくなるのか。根拠はないけれど、たぶんそんなことはないだろうとカペルには思えた。アーヤはアーヤだ。
「ふふふ。カペル、ありがと。話したら、ちょっと気が晴れたわ」
 夜の闇に沈むようだった彼女の表情に、月明かりに照らされた微笑が浮かびあがる。「部屋の場所、わかる?」と続けられた声音がすっかりいつもの調子で、やはりアーヤはアーヤなのだと納得したカペルは、「たぶん」と彼女に答えた。
「じゃあ、私、部屋に戻るね」
「うん」
「おやすみ、カペル」
「おやすみ、アーヤ」
 街の明かりが徐々に消え始め、眼下の星空が少しずつ寂しくなっていく。
 アーヤを見送ってから、しばらくの間、カペルはその様子をぼんやりと見つめていた。