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らんぶーたん
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novelistID. 3694
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小説インフィニットアンディスカバリー

INDEX|45ページ/65ページ|

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 代金を払い、アクセサリー屋を立ち去ろうとした時だった。
 つい最近あったばかりな気がする状況に嫌な予感を感じながらも、カペルは声の方を振り返った。
「はぁ、はぁ……。シグムント様、お助けくださいー」
「ジーナさん、僕ですよ。カペルです」
「えっ? ああ、道理ででこんなところで惚けた顔して油売っていられるわけ……って私また失言を」
「で、どうしたんです?」
 話が長くなる前にカペルはジーナの言葉を遮った。
「グスタフが見つからないのですよー」
「グスタフってアーヤのペットの? まだ見つかってないんですか?」
「きっと悪い人に連れ去られちゃったんです。それで解体されちゃったんですよ。毛皮は市場に並べられて、肉は鍋に放り込まれて……私、姫様になんて言ってお鍋をお出しすれば……」
「鍋かぁ……」
 そういえば昼食がまだだった。
「よだれ、よだれ。間抜けが引き立っちゃいますよ……って私また! 申し訳ありません……」
「いや、もういいですから」
「それで、グスタフを捜すのをカペル様に手伝っていただきたいんです」
「えー、やだよー。今からアーヤのところに行こなきゃいけないのに」
 行かなければならないことはないのだが、手に持ったブローチの包みを見せながら、それを理由にしてカペルは逃げだそうとした。面倒ごとはごめんだ。
「その姫様が落ち込んでいらっしゃるのですよ。グスタフがいないと言って、部屋の隅で寂しそうに両膝を抱えていらっしゃるのです!」
「ほんとに?」
「いや、膝を抱えてはいませんけど」
「……」
「と、とにかく、お願いします。でないと、私、姫様になんて言っていいか……グスッ」
 突然泣き出したジーナに、カペルは慌てざるを得なかった。大通りのど真ん中だ。人目がある。端から見ればカペルが泣かせたかのよう見えるだろう。そうなると、シグムントの評判にも関わる。
「ちょ、ちょっと泣かないでくださいよ」
「……じゃあ手伝ってくださいます?」
「やだ」
「むむむ、泣き落としもダメか」
「…………」
 やっぱり嘘泣きか。
 万策尽きたと苦悶を浮かべながら、次の方便をひねり出そうとしているジーナの隙をついて、カペルは離脱をはかった。
「じゃあ、僕行くね」
「……手伝っていただけるなら、報酬も出します! ええっと……、姫様の好みのタイプの情報なんてどうです?」
「……今なんと?」
 思わず食いついてしまった。ジーナがしたり顔をする。
「ふっふっふ、私は姫様付きのメイド。姫様のことなら、好みのタイプからほくろの数まで、全て把握しております!」
「……その話、詳しく聞かせていただきましょう。出来ればほくろの方も」


 いつまでたっても、少年とメイド姿の少女は店の前から立ち去ろうとしなかった。
 それで、ウェッジは一つ咳払いをして、「そこで立ち話をされたら商売あがったりだ」という意志を伝えてみた。
「とりあえず移動しましょう、ジーナさん」
 少年が空気を読んでメイドの少女を促す。ようやく店をたためる。
 だが、その立ち話の中で、少年たちは有益な情報を残していってくれた。
 フェイエールの姫が大事にしているペットが行方不明だということだ。
 少年たちよりも早く見つけて捕らえることが出来れば、姫をおびき出して拉致することもできるかもしれない。そうすれば手柄だ。
 ふいに訪れた功名の機会に、ウェッジの中の熱が再燃する。
 慣れた手つきでそそくさと店をたたむと、ウェッジは街の人に聞き込みを開始した。

「ああ、姫様のペットかい? 珍しい生き物なんだよ、あれは。クリムゾンベアと言ってね。見た目はちょっと怖いけど、あれでかわいいところもあるんだよ」
「ふかふかのもこもこ!」
「私より良いアクセサリーをつけているのよ。くやしいわ! 私も金のブレスレットとかほしいわよ。それなのにうちの亭主と言ったら……」
「さっき街の外に走っていったよ」

 クリムゾンベアというのがいささか気になったが、姫のペットなのだからおそらくは小グマだろう。それならやりようはある。愛用のナイフといくつかの隠し武器、それに小グマを縛るためのロープを用意して、ウェッジは足早に街を出た。
 先ほどの少年とメイドはまだ見つけていないと思われる。ついさっき、暢気に露店で買ったジュースに舌鼓を打っている姿を確認していたからだ。あの調子ならまだどこへ行ったかもわかっていないはずだ。
 目撃談に従って進み、町外れの岩石地帯を歩き回る。何度もモンスターに襲われそうになったが、隠れながら何とかやり過ごしてきた。
 そして、グスタフと思われる赤毛のクマを見つける。
「しゃ、洒落にならん……」
 小グマどころか、平均よりも幾らか大きいとさえ思えるクマ。その膂力と鋭利な爪で、襲いかかってくるモンスターの群れをなぎ倒している姿が見え、ウェッジは思わず岩陰に身を隠した。
 あんなものをどうやって捕まえろというのだ。
 逃げ出すべきか……。
 しかし、疲労からか怪我からか、グスタフはかなり弱っているようにも見えた。周りのモンスターさえなんとかすれば、相手は所詮、獣だ。罠にはめればなんとかなるんじゃないか?
 誘惑と防衛本能が葛藤する中、ウェッジは岩陰からグスタフの様子を伺った。
 グスタフが大蛇の尾に足を取られて引き倒されるのが見えた。そこに、モンスターの群れのボスなのか、野生のトロルが棍棒を振り回しながら近づいてくる。
 まずい、このままではやられてしまう。いくら何でも数が違う。これじゃいじめじゃないか。
 それにグスタフが死んでしまっては元も子もない……。敵に囲まれ、傷だらけになる姿に自らの過去を重ね、冷静さを失った頭が誘惑に振り切れる。ウェッジは懐から二本のナイフを引き抜くと、岩陰から飛び出した。


 トロルはグスタフを見下ろしたままで、こちらに気づいた様子はない。駆け寄りながら、ウェッジはナイフを続けざまに放った。ナイフは狙いどおりの軌跡を描いて、トロルの側頭部に直進する。そして、突き刺さった……ように見えたナイフは、ぽろりと重力に従って落下した。分厚いトロルの皮に刃が通らない。
 自分の力を過信した行動は、身を滅ぼすように作用する。グスタフを見下ろしていたトロルが、ナイフの当たった場所をぽりぽりと掻きながらこちらを振り向く。そして、大音量の雄叫びを上げた。
「ヒィイイイッ!」
 思わず悲鳴を上げたウェッジは、震える足を無理矢理に動かして全力で逃げ出した。地鳴りのようなトロルの足音が追いかけてくる。
 と、とにかくこれでグスタフは助かった。後はこいつをまけば……。
 その時、ギュンと空気を切り裂く音が聞こえたかと思うと、ウェッジの眼前にトロルの棍棒が飛んできて大地に突き刺さった。もう数歩前にいたら、直撃していたかもしれない。
 おそるおそる振り返る。トロルはもう目前まで迫っていた。見かけによらず足が速い、などと感心している場合ではない。