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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー

INDEX|56ページ/65ページ|

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 攻撃を仕掛けようとしていたのか、ちょうど見開かれていた瞳孔に矢が突き立つ。どこからともなく悲鳴ともとれる声が聞こえると、その隙を狙ってバルバガンが走り出した。肩に光る月印が白熱し、雄叫びを伴って巨大な戦斧が振り下ろされる。斬るというよりも断つと言った方が正しいその一撃が、“クロン”ヴィシャスアイを文字通り両断した。
「ぐっ……やってくれる」
 打ち合っていたドミニカと距離を取り、ニエジェランが呻いた。
「一人だと寂しいだろ、ボクちゃん?」
 ドミニカらしくない安っぽい挑発だとアーヤは思った。が、効果はてきめんだった。
 怒りに顔を紅潮させたニエジェランはさらに大きく距離を取り、月印を光らせながら両手を床につけた。すると、その中空に巨大な魔方陣が今度は二つ浮かびあがり、“クロン”ヴィシャスアイと同型のモンスターが二体召喚される。
「今度は二つだよ。やっぱり目は二つないとね。ふひひ」
 そう笑い、床石を溶解する光線をドミニカに放つよう、目の一つをけしかける。
 辛うじてかわしたドミニカをさらにあざ笑いながら、「ボクを怒らせたおまえが悪いんだ」と地団駄を踏む様は、中年に差し掛かろうかという男のそれではないとアーヤは思った。
 ドミニカがこちらを見ている。何かを指し示すような彼女の視線を追い、アーヤはもう一つの異変に気づいた。
 上層へと向かう転送陣を覆っていた障壁が消えている。エドアルドと自分たちを分断していた鉄壁の防壁。召喚に力を使いすぎたのか、それとも挑発に我を忘れたか。どちらにしてもドミニカが一枚上手だったのだ。
「アーヤくん!」
 ユージンに呼ばれ、アーヤはそちらへと駆けた。
「ユージンさん、あれ!」
「ああ、わかっている」
 眼鏡を指でくいと押し上げ、ユージンが続けた。
「アーヤくん、君は先に上に行ってくれ。僕らはここを片付けてから追うよ」
「でも……!」
 ニエジェランの奥の手がこの程度だとは思えなかった。
 あんななりでも封印騎士。ショプロン村で見た漆黒の翼を思い出し、シグムントさえ手こずらせたあれを使えるのならと考えると、一人で先に行く気にもなれなかった。
 その心配が顔に表れてしまったのか、ユージンがもう一度「わかっている」と微笑む。
「だけど、先に行ったエドくんが心配だ。もしかしたら彼は一人で封印騎士とやりあっているかもしれないだろう?」
「あっ」
「だから、アーヤくんには先に行ってもらいたいんだ。シグムントとカペルくんのこともあるしね」
「……わかりました」
 誰をどこに配置するか。こういう判断はユージンに任せた方が確実だろう。そう自分を納得させ、ユージンとミルシェの二人と目を合わせると、こくりと頷きあってから、アーヤは転送陣へと駆けだした。
 それに気づいた目玉の一匹が、走るアーヤ目掛けて光線を放つ。俯けていた視線を上げるように、光線が床を溶断しながらアーヤに殺到する。
 刹那、床をぶち破って岩石の壁がそそり立ち、アーヤを襲う光線を遮断した。ユージンが得意とする魔法の一つだ。
 そして、すぐに光線がかき消えた。”クロン“ヴィシャスアイの方を見遣ると、バルバガンが強烈な体当たりをかまし、自分の数倍はあるだろう質量を床に転げさせていた。親指を立てて豪快に笑う様にバルバガンらしいなと思うと、彼らに対する心配が霧散していくのがわかる。
 アーヤは止めていた足を走らせた。
「行かせるもんか!」
 右手からニエジェランが飛びかかってくるのが見えたが、「行かせるんだよ!」とすぐにドミニカが割って入る。
「ドミニカ!」
「アーヤ、坊やをしっかり助けてやるんだよ」
 ニエジェランの剣を押さえ込んだまま、こちらを見たドミニカがウィンクをする。かっと頬が熱くなるのを感じながら、アーヤは「うん!」と答えて転送陣へと飛び込んだ。

「ふふ、坊やの前でもあれくらい素直になれればねぇ」
 赤くなったアーヤが転送陣に消えるのを確認すると、ドミニカはニエジェランをはじき飛ばしてから呟いた。
「ドミニカ、と言ったか。さっきから一々まとわりついてきて、面倒な女だな。ボクに気でもあるのかい?」
「ああ、そうかもね。だから、もうしばらくダンスの相手をしてもらおうじゃないか」
 まったく趣味でない男の顔を槍の向こうに見据え、それが苦虫を噛み潰すように変化していくのをドミニカは笑った。


 ドミトリィが撃ち放った衝撃波を切り裂き、爆ぜたエネルギーの奔流をかきわけながらエドアルドは猪突する。
 渾身で放った斬撃は、紙一重のところで消えたドミトリィにかわされたが、鋭敏になった感覚はその現れる場所をすでに捉えていた。
 床を破砕しながら反転。ドミトリィに消える余裕を与えないタイミングの一撃は、しかし、見事にいなされ、エドアルドはそのまま壁に並ぶ彫像を打ち砕くことになった。
 強い。
 それは月印の差などではなく、純粋に剣士としての力量への感想だった。
 強い剣士には、敵であろうと敬意を払う。斬り結ぶ中で、エドアルドは目の前の敵に対して一定の敬意を払うようになっていた。だがそれは、同時に一つの疑問となってエドアルドの口をついた。
「なぜレオニードにつく。なぜ月の鎖なんかを……?」
 月の鎖は、世界を腐らせる諸悪の根源。大地が穢れれば人の生活はままならなくなり、モンスターが徘徊すれば直接的な生命の危険にもつながる。現にエドアルドは、月の鎖によって苦しむ人たちを多く見てきた。
 剣士を強くするのは、才能と、修練と、その矜恃だとエドアルドは思っていた。だから、これほどの剣士が封印軍にいることが理解できない。
 エドアルドの声が聞こえたのだろうか。
 ドミトリィが剣を下ろし、何かを考えるように黙り込む。そして、不意に月印を光らせると、手から衝撃波を飛ばして床をたたき割った。
「この力が何だかわかるか?」
 そんなものはわかりきっている。
「月印だ」
 エドアルドと触れ合った視線を握り込んだ拳に落とし、再び一瞬の迷いを見せた後に続けたドミトリィの言葉は、にわかには信じられない内容だった。
「……俺が、“新月の民”だと言っても、そう言えるか?」
「なっ……!?」
 あり得ない。
 新月の民とは、月印を持たぬ人たちの総称だ。だが、目の前の男は確かに月印を使って戦っていた。
 ドミトリィの言った意味がわからずに、やはりあり得ないと断じようとしたエドアルドだったが、そのとき、ふと思い出した記憶に思わず言葉を呑み込んだ。

「……よけいなことをしやがって」

 ショプロン村の鎖を解放したときに聞いた誰かの声。誰のものかわからずに聞き流してしまったその声が、封印軍を支持する新月の民のものだったとしたら……。
 あり得ないとしか思えなかったものに疑念が生じ、同時に、ドミトリィの月印の上に覆い被さる赤い鎖をはっきりと視認したエドアルドは、それに月の鎖の姿を幻視した。
 月……。
 鎖……。
 月印……。
「ま、まさか……そんな……」
 そして、エドアルドの疑念はドミトリィの言葉によって確信に変わる。