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こらぼでほすと 自転車

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 一枚の紙には、子供を載せられる荷台がついている三輪使用の自転車のイラストがあった。体力が落ちているから、荷物を運ぶにしても、このほうが楽だろうと、義兄は、さらに言いおいて、居間へ入ってしまった。

・・・・・つまり、考えてはいてくれたってこと? やだなあー愛されてるじゃないか、兄さんったら・・・・・・

 ぷぷっと、小さく吹き出して、その紙をポケットに仕舞い込むと、外出することを告げるために、本堂へと向かった。



 本堂は、すでに、海洋生物が。ぷかぷかと浮かんだ不思議な空間になっていた。脇部屋のほうの障子が開け放たれていて、兄も寝転びつつ、そこから、それを鑑賞していた。ぷかぷかと浮かんでいるのは、イルカ、ペンギン、マンボウ、マンタ、それから大きな魚や、タコ、イカと、これでもかという海の生き物ラインナップで、錘で調節しているのか、それらが、高さもバラバラに配置されている。

「兄さん、俺、ちょっと出て来るけど、買いモノとかある? 」

「これといってはないな。刹那も連れてけよ、ライル。」

「刹那、一緒に行くか? 」

「ああ、付き合おう。・・・・・おまえは寝てろ。」

 前半は、俺、後半は、兄に言って、ダーリンは立ち上がる。悟空に、後を任せることも忘れない。

「おう、任せとけ。今からだと昼はいらないな? 」

「そうだな。だが、夜までには戻る。荷物を、降ろしておかないといけないんだ。」

 歌姫から借り出しているクルマには、まだ、荷物が積まれたままだ。あれを片付けて返してこなければならない。

「ラクスのクルマなら慌てなくてもいいと思うぜ。」

「いや、作りたいんだ。」

 荷物が全部プラモデルだと話したので、悟空が、ああと納得したように頷いた。この休みに一体でも完成させたいのだろう。

「だから、おまえに長時間は割けないぞ? 」

「ああ、それでいいさ。じゃあ、行ってきます。」

 ラウンドウォーカーという自転車の調達だけだから、それほど時間は必要ではない。山門を出てから、目的を告げたら、そういうことなら喜んで付き合おう、と、言い直したダーリンは、親孝行だと笑ってしまった。



 夏の盛りで外は暑い。荷物のことを考えると、ダーリンが借りているクルマで出たほうがいいので、とりあえず、荷物を寺のほうへ運び込んだ。ひとつずつは重くないので、積み上げて、さくさくと家のほうへ放り込む。それが済むと、ナビシステムで、ホームセンターの検索をした。

 自転車なら、そういうとこだろうと思ったのだが、生憎と、ホームセンターにはなかった。そこの店員に、どこに売っているか尋ねたら、専門店を教えてくれた。遠い場所でなかったので、そのまま直行した。確かに、いろんな種類のラウンドウォーカーが並んでいる。

「種類が多いな。」

「ライル、電動のがあるぞ。これがいい。」

 ダーリンが、パンフレットを片手に指差した先には、青い三輪車があった。前輪が二輪で、そこに子供の座る場所がある。本来、これは、小さな子供と母親が乗るための自転車で安全面が、かなりしっかりした作りになっているものらしい。だから、前輪が二輪で転倒を防止しているし、子供の乗るところも左右に転がり落ちないように、左右に高く骨組みがある。

 さらに、高級品になると電動で、ある程度、乗り手の負担も軽くしてくれるらしい。体力的に弱っている兄なら、こちらのほうがいいだろう。

「これ、持って帰れるかな? 」

「後部座席をフラットにしてしまえば入る長さだ。問題ない。」

「色は、これしかないのかな? 緑とかいいんだけどなあ。」

 ナショナルカラーのグリーンのほうがいいな、と、思ったのだが、これがいい、と、その青いのをダーリンが勝手に注文した。

「もしかして、ダブルオーの色だから、とか? 」

「あいつには、これでいいんだ。おまえなら、緑にすればいい。」

 なぜか、俺のダーリンは、兄にだけ我侭をする。また、兄のほうも、それを聞いてやっている。本来、俺と兄の関係は、そういうものだが、そこに、ダーリンが割り込んだ形だと、ダーリンは言う。そう言われてみれは、そうだな、と、納得した。たぶん、兄は、俺が我侭を言っても、聞いてくれるだろう。

・・・・・・甘えられる相手が、ふたりに増殖したってことでいいんだろな・・・・・・

 双子の間で完結していたはずの関係に、ダーリンが入り込んだ。これで三角関係にならないのが、不思議だが、納得もする。兄と同じモノが好きになるということはない。双子でも趣味嗜好は違うからだ。

「買うか? 」

 ぼんやり考え事に浸っていたら、ダーリンが、さらに俺の分を注文しようとしていたので止めた。俺は、自転車で、それも親子で乗るようなほのぼのとしたものに乗る用事はない。

「買ってくれるなら、俺を買い上げてよ? ダーリン。」

 小声で、ダーリンの耳に囁いたら、「わかった。」 と、レジへ歩き出す。愛想はないのだが、拒否しなかったということは、今夜辺り買い上げてくれるつもりなのだろう。元カレに、こんな直接攻撃はしたことがなかった。適度な言葉のやり取りや視線と雰囲気で、そこまでの過程は楽しんでいたからだ。だが、ダーリンは、そういうことをしても、絶対に察してくれないから、やりたい時は、やりたいと言わなければならない。そこが、また新鮮というか、解り易いというか、だ。

「支払は、俺が。」

「いい。これは、俺が買う。俺のおかんのものだからな。」

 八年にも及んで世話をされていたダーリンは、兄のものを用意するのが楽しいらしい。兄のほうも、俺のダーリンのものを選んで買うのは、楽しいと言う。どんだけ、あんたら、ラブラブなんだよ? と、ツッコんでも無意味だ。そういう感情は、ふたりに存在していないからだ。

「ライル? 欲しいものがあったら買ってやるぞ? 」

 そして、なぜか、どっちも俺のものも買いたがる。

「じゃあ、夏もののサングラス。こっちの日差しはきついんだ。」

「わかった。これを積んだら、売ってるところへ誘導しろ。」

 八歳も年下なのに、なぜ、こうも男前なんだろう。というか、どういう育て方をしたら、こうなるんですか? と、尋ねたくなる。



「自転車? 」

 三時過ぎに寺へ戻って、脇部屋に顔を出したら、ティエリアが昼寝をしていた。その隣りで、兄が、のんびりと雑誌を捲っているところだった。本堂の前まで、自転車を運んで説明したら、びっくりしていた。

「発案は、俺じゃなくて、お義兄さんだぜ? 兄さん。」

「三蔵さんが?  乗ってみたかったのかな? 」

「いや、違うだろ? それ。」

 まったく知らなかったが、兄には 「天然すっとぼけ」 という技があることを知った。どっかで、感情が混線しているらしい。

「まあ、これは有難いな。金払うよ、ライル。」

「えーっと、買ったのは、刹那なんだ。俺も、これ、買ってもらっちゃったあ。」

 頭上に乗せているサングラスを指差したら、兄に呆れられた。

「あのさ、おまえ・・・・・刹那にたかるって所業は、どーよ? 」

「たかってないぜ。ダーリンが、買ってくれるって言ったんだよ。」
作品名:こらぼでほすと 自転車 作家名:篠義