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加賀屋 藍(※撤退予定)
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平和島静雄についての考察

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「……で、何でここにいるのかなぁ、シズちゃん。今日は確か、午前中は仕事でもう三本向こうの通りにいるはずじゃなかった?」
背後から感じた不穏な気配に振り向きながら、俺は打ちかけのメールを中断して携帯電話をポケットへと突っ込んだ。
これ一台が無くちゃどうにもならないわけでもないけど、一応大事な商売道具。取り扱いには気を付けている。
つまり、嵐の前には避難させておくのが吉ってこと。
「生憎、30分前に終わったんだよ。で、なぁんかむかつく気配がすると思って来てみたら手前がいたわけだ、臨也よぉ」
シズちゃんって呼ぶなって言ってんだろ?と、タバコをキツく噛んだ好戦的な表情が、顔面に浮き出た血管に彩られている。
(うわぁ、今日はいつにも増して機嫌が悪いみたいだねぇ。ん、でも……?)
臨也は僅かな違和感を覚えていた。普段ならこの時点で、問答無用で殴りかかってきているところだ。
何か、シズちゃんいつもと違うような――?
けれど、命取りだとわかっていながら、口を動かしてしまうのは自覚的な条件反射だった。

「わー、気配察して歩くなんてもう人間じゃなくて動物並だよね、シズちゃん?」
ポケットに手を突っ込んだままおどけるように首を傾げてみせると、あーあ呆気ない。
彼の脆いリミッターが悲鳴を上げて引きちぎれていくのが手に取る様に分かる。
「手前ぇぇ……」
怒りすぎて歪んだ笑みが、シャレでなく良く似合っていた。(あ、この辺はいつもどおりだ)

「いい加減、その減らず口を閉じろ!臨也ぁー!」
掴み上げ投げつけるものを探した手は、すぐに獲物を見つけてその甲に筋を浮かび上がらせた。
背中を向けて逃げるには、ちょっと時間が足りないなと俺は経験から素早く判断する。
ミシミシと軋む音。
それは次第にメキメキともバキバキともつかない音になってとうとう頭上へ抱え上げられた。
……重量のあるものって結構圧巻だよねぇ、それが浮いてると。
暢気な感想が浮かんだのも、もう慣れとしか言いようがない。

ガードレール!
両手を広げたくらいの長さのそれが、地面から無理やり引き剥がされ、足元にコンクリートをくっつけたまま風を切って飛んできた。
ガチャァン!
俺の背後にあった店舗の窓ガラスが破かれ、中からは悲鳴。ご愁傷さま。
あーあ、また給料から天引きされる額が増えちゃったね、シーズちゃん。
口にしていたら次に飛んできていたであろう車両通行禁止の標識を脇目に、ガードレールの突撃を左へと素早くよけた俺は、ナイフを構えたままその懐へと飛び込む。
肉薄。
刺さらないのはとうにわかってるので、ナイフの切れ味に任せ力を込めて振り払った。
とっさに頭部を庇った右腕が斜めに切り裂かれたのがわかる。
けど追撃はしない。すぐに間を空ける。痛みに驚いて隙を見せるような可愛げはシズちゃんにはないからだ。
想像どおり、シズちゃんは一瞬、腕に目をやると、パッと散った赤がバーテン服を徐々に濡らしていく……その様を見て更に激昂した。
「てめっ…、幽から貰った服を!」
――服ね。
まず怒るのがそこなのが、シズちゃんらしいったらない。結構派手にやったし、痛くないわけじゃないんだろうけど。
「臨也よぉー…?」
そこまで考えたところで、シズちゃんの方から、地の底から這い上がってきたような声が聞こえた。
どす黒い気配を纏い、血走って爛々と光る目を、青いグラスの向こうに住まわせている。
そして叫んだ。
「ああぁぁぁ、マジキレた!今日は手前を見つける前から最悪だったが、手前が現れて記録更新中だ。責任取って死んでけ。いぃーざーやぁーっ!」