平和島静雄についての考察
……そこからの追走劇の顛末は、まぁ、いつもどおりだった。
(池袋が人口の多い街で良かった。そうじゃなかったら今頃俺は原形を留めてなかったかもね)
何せ煙に巻くのも楽な相手じゃないから。
「ホント、災難だったなー。まさかあんな場所でシズちゃんに出会すことになるなんてねぇ」
自宅のデスクの椅子がやや傾くほどだらーっと体を預けて、無事に生き延びた携帯電話のボタンをカチカチ叩く。
傍目にはリラックスした姿のように見えるが、頭はくるくると動いていた。
明日の予定、今必要なこと、新たに興味を持ったこと、欲しい結果を得るための方法――ついでに今日の情報整理。
今日のシズちゃんはいつもよりも怒りが激しかったような気がする。
そもそも、まだ上が有ったことに驚くべきかな、とか。
(一番気になるのは、『イレギュラー』だな)
敵状視察と警戒を怠ったつもりはない。シズちゃんは確かに、あの時間にあの場所にいるはずがなかった。
確信を持って言えるのは、臨也が予想の範囲外で静雄に遭遇しないようにしているからだ。
行動のパターンが読めない人間の相手は容易ではない。そして、その筆頭がシズちゃんなのも間違いない。
それゆえに、臨也は特別の労力を払っても平和島静雄に対する情報収集を欠かさない。
(だって、シズちゃんに会おうっていう時には、他の誰に会う時とも違う心構えが必要っていうか…さ)
その理由については苛立たしいので、深く考えないことにしている。
ともかく、向こうに何か『イレギュラー』があったのだ。
「シズちゃんを苛立たせて、“不安定”にさせるような……ね。興味有るなぁ」
一人楽しげに呟いた臨也は、パチンとフリップを閉じて、腹筋を使って椅子の背もたれからひょいと体を起こす。
素早くデスクの上のマウスに指を滑らせて、スクリーンセーバーを切った。
そのまま立ち上がっているパソコンの画面を見つめ、キーボードに何かを打ち込み出した彼には、もう先ほどまでの緩んだ様子は微塵もなく。
その様はどこか舌嘗めずりをする獣を思わせた。
作品名:平和島静雄についての考察 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)