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加賀屋 藍(※撤退予定)
加賀屋 藍(※撤退予定)
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平和島静雄についての考察

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(へー、こんな彼女がねぇ。確かに度胸は良さそうかな。きつめの美人――あんまり好みじゃないな)
隣に座る女性を抜け目なく観察しながら、臨也は彼女との会話を楽しんでいた。

臨也はあれから、自身のネットワークを駆使して、今日の昼に何があったのかを調べていた。
事前情報から時間は大体想像がついたので、あとは目撃者を探しコンタクトを取るだけの簡単な作業だ。何しろ、シズちゃんは目立つ。
そして、その出来事にたどり着いた。

事の顛末はこうだ。
今のシズちゃんの仕事場(今度のはまだ3日目)で、シズちゃんをキレさせた男がいた。
そこまではいつものことだ。
イレギュラーはその後。
即座に男に殴りかかった静雄に、ここにいる彼女が言ったとある言葉だった。
『それを聞いて、平和島静雄が拳を納めて、押し黙った。あの平和島静雄が!』……と、話を聞いた目撃者が信じがたいように訴えてくれた。
けれども見たことがないほど怒り狂っていた、と。
憤怒を体現して尚、女に直接手を上げるのは控えたのか、彼女はご覧の通り、五体満足でここにいる。
代わりに店は半壊して、シズちゃんは3日にして首になったそうだ。


「『こんなことで殴りかかるなんて貴方は異常よ、気持ち悪い!家族の顔が見てみたいものだわ――』」
彼女が今日の昼に発した台詞を臨也は、棒読みに呟いた。
「そう言ったんだって? 『家族』と『自分の異常さ』はシズちゃんの弱点――よくわかったね。それとも知らなかったのかもしれないけど」
黙り込んでいる彼女の表情を観察する。少し青くなっているようだった。
――何だ。やっぱり知らなかったんだ、たかが偶然なんて面白くないなぁ。
そんな内面はおくびにも出さないで、彼女を褒め称える。
「殴られそうになってる愛しい男のために、シズちゃんに盾突いたんだから、愛だよねー!」
そこで、口調をガラッと変えた。
「……ただ、俺としてはちょっと気に入らないかなぁ。シズちゃんに横槍を入れられたこと」
高い断崖から、トンと落ちたくらいの温度の変化だった。
そうして彼女はやっと俺の不快に気がついたようだ。まぁ――もう、遅いんだけどね。
「何故…?あなたと、平和島静雄は憎みあってるんでしょ…!? 私がちょっと言ったくらいでなんで、あなたが…!」
「はは、『憎みあってる』ね。実はそう簡単じゃないんだよねー」
そうして、臨也の長い一人語りが始まった。


--------------------


無理矢理、聴衆に引き入れられた彼女は逃れることもできずに一人語りを聞かされてしまった。
「……だからさ、只でさえ掴みがたいのに、君みたいなイレギュラー、俺は歓迎できないんだよね」
イヤなんだよ、こっちが掻き乱されるのはさ。観察できるような暇を与えてくれないから。

話しながらも隣から向けられる、こちらを観察する、体の内までナイフで腑分けしてまじまじと見られているような視線。
彼女はこの男の噂に聞く怖さを目の当たりにしていることに気付いていた。
その得体の知れなさゆえに背筋をうすら寒くする雰囲気に、女は堪らず牽制する。
「言っておくけど、私に手を出したら、組が黙っていないわよ」
すると、臨也は「今、俺にそんな趣味はないよ」とにっと悪戯っぽく笑ってみせた。
「君に手は出さない。むしろ面白いものを見せてもらったお礼をさせてもらったくらいさ。君のダーリンにプレゼントしておいたよ、これ」
そうして、上着の内側から数枚の写真を取り出してみせる。
「な…っ!」
そこに写し出されているのは、彼女とごく普通のスーツ姿の男性だった。
腕を絡めているもの、一緒に部屋の中に入っていくものなど一見して特別な仲だとわかる。
指を震わせた彼女に、臨也はわざとらしく彼女のお代わりを頼む。
「組長さん、ああ見えて独占欲が激しくて、浮気なんかしようものなら手がつけられないんだって?君も大変だよねぇ、シズちゃんに歯向かえるくらい想ってる本命は別にいるってのにそんなんじゃ。だから代わりに俺が懇切丁寧に説明しておいてあげたよ。――情報屋として元々知らない仲じゃないしね。最初はなかなか信じてくれなかったけど、君がどんなに昔から、どんなに真剣に相手を愛しているかを話したらわかってくれたみたいで。ーーああ、大丈夫。これはお礼だから、もちろんタダ」
滔々と言葉を継ぐ悪魔の隣、彼女の手の中では、悪魔祓いの名を冠したカクテルがカタカタと波立ち、薄暗い照明にも負けず冷たく青く光る。
「そしたら組長さん、君と話しがしたいって真摯に仰っててねぇ。今、実は外で待たれているから、後は二人で話し合うといいよ。俺は邪魔しないよう、もう帰るから」
じゃあ、組長さんによろしく。
ちょうどバーテンダーが赤いカクテルを差し出すのと同時に臨也は席を立った。
もう振り向きもしない彼の背後、気丈に見えた女性の顔からは、チークと赤い口紅以外の色が綺麗に消え失せていた。
やや遅れて、薄いガラスの、割れる音がした。