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こらぼでほすと うまうま

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 最後に、生クリームをホイップすると、それを搾り器に入れて俺に渡してくれた。二段のふわふわしたホットケーキの間には、ちゃんとバターが塗られている。びゅっと搾ったら、どばどばと生クリームが出た。それを、ぐるりと回して、ホットケーキの上に乗せていく。それが終わったら、用意した果物を載せる。いろいろな果物を載せたら、豪華なケーキのようになった。仕上げに少しだけメイプルシロップをかけた。冷蔵庫に入れていたプリンを、器に空けて、それから桃のゼリーも切り分けて皿に載せた。
「こんなもんか? 」
「ごうきゃにゃっっ。」
「リクエストは、これでよかったのか? 」
「あいっっ。」
 じゃあ食べようか? と、席につく。切り分けて、差し出されるのは、生クリームたっぷりのホットケーキだ。はごっと食いついたら、ほわりとした温かな感触で口の中が一杯になる。

・・・・・うまいっっ、うますぎるぞっっ、ニール・ディランディっっ・・・

「どうだ? 」
「うみゃいっっ。・・・あにゃたもたびるのらっっ。」
 はいはい、と、ニールも一口食べた。切り分けてくれたから、小さなフォークで俺も自分で食べる。酸っぱいはずのグレープフルーツすら、生クリームとメイプルシロップで甘くなる。
「そればっかり食べてないで、こっちも味見してくれよ? ティエリア。」
 差し出されたプリンとゼリーも、スプーンで放り込んでくれた。こちらも、おいしくて絶句した。それほど甘いわけでもなくて、ほろ苦いカラメルソースが、いいアクセントだ。
「ぷりん、もっと。」
「はいはい。・・・こういうのが好きだと知らなかったぞ? 好きなら好きっていえば作るのに。」
「こんどきゃら、つくってくりぇ。あにゃたのほっちょけーきぃは、ぜぇっぴいんにゃ。」
「そこまで褒めなくても作るよ。・・・ほら、口開けな。はい。」
 おいしくて、そして、ニールの笑顔が嬉しくて、いつもより食が進んだ。栄養の摂取という考え方からすると、糖分の摂りすぎに該当しているのだが、食事というのは、それとは違う。それも、ニールが教えてくれたことだ。おいしいと思いながら食べると、精神的な部分も満たされていくから、そちらのほうが重要なのだと言ったのだ。最初は、その意味がわからなかった。だが、わかってしまったら、ただのサプリメントの食事が虚しく感じられたのも事実だ。


 おなか一杯に食べて、ニールにクスリを飲まてから、シャワーを浴びて昼寝した。ぐっすりと眠っているニールを、しばらく眺めてから、携帯端末を取り出して寝室から抜け出した。刹那に連絡して、絶対に戻るようにと言い置いて、俺も昼寝に突入した。


 ニールの体調が、年々、悪くなっていることは、ドクターからも注意されていた。どうにか、無事に戻って来た俺たちは、さらに、体力がなくなっていることも知らされている。二年前より、がくりと体力が落ちたのは、組織が再始動したからだ。

 当人は、あまりよくわかっていない。『吉祥富貴』のスタッフたちが、そっとフォローして気付かせないでいたからだ。

・・・・・ダブルオーライザーが完全に修理されたら、まずは、あなたの細胞異常を、刹那に正常に戻させる・・・・・・

 ラッセの身体は、元に戻っている。おそらく、ニールも、回復させられるはずだ。完全に回復したら、また組織に戻って欲しい、とは、思っているが、どうなるのか予想がつかない。だが、この人は、きっと同じ戦い方をするだろう。そう考えると、マイスターには戻って欲しくない。あんなふうに消えられたら、いくら俺でも耐えられない。

 昼寝から目が覚めて、ぼんやりと、そんなことを考えていた。ニールは、まだ、眠っているので大人しくしているのだが、喉が渇いていた。

 そっと起き出しても、ニールは反応しない。長いこと、そういう世界から遠去かっていると、気配では反応しなくなるものらしい。

 台所へ入り、食洗機からコップを取り出した。それを一旦、食卓に置いて、椅子をシンクの前に移動させる。シンクの蛇口に、手が届かないから、こういう方法でしか水も飲めない。椅子によじ登って、食卓のコップを取ろうとして、椅子の端っこに立ったのがまずかったのか、椅子が傾いて、俺は、そこから放り出された。

・・・・・しまった・・・・・

 かなりの衝撃があったが、それより気になったのは、ニールのほうだ。せっかく寝ていたのに、この音は聞こえたに違いない。

「ティエリアっっ。」

 ほら、やはり、と、起き上がろうとしたら、背中が痛かった。どうやら、背中から落ちたらしい。バタバタと音がして、ニールがやってきて、抱き起こしてくれた。

「どこが痛いっっ? 大丈夫か? 頭は? 」

「・・・・にーるぅー、だいじょうぶにゃ・・・・せにゃかをうっただけにゃ。しゅまにゃい、おこしてしみゃった。」

「そんなことは、どうでもいい。息はできるか? 」

「できりゅ。」

「頭は痛くないか? 」

「にゃい。」

 ほおっと大きく息を吐き出したニールは、俺を抱き締めたまま脱力した。それから、ふらふらと腰を下ろして、そのまま寝転がった。

「にーるぅー? 」

「悪りぃーちょっと、このままでな。」

 背中を擦ってくれている手は、緩々と動いている。その腕から起き上がったら、真っ青な顔のニールが目を閉じている。

「にーるぅー? だいじょうぶきゃ? 」

「そりゃ、おまえさんのほうだろ? 俺は、貧血だから、じっとしてれば収まる。・・・・今は、興奮してるからわからないのかもしれないから、おまえさんも、じっとしてな。」

「おりぃのほうは、もんだいにゃい。このきゃらだは、とりかえがきくにゃ。おりぃは、べーだとりんくしていりゅから、ここでしんでも・・・」

 そこまで言ったら、ぺしっと、割と本気で叩かれた。この身体は仮のものだ。もし、ここで、この身体を破損したとしても、ヴェーダに本体意識は戻るだけで、俺本体は死ぬということはない。だから、あなたのほうが心配なんだと言い直そうとして、また、頭を叩かれた。

「ばかっっ、痛いのは同じだろっっ?  いちいち、死ぬ痛みなんて感じるんじゃないっっ。人間なんだから痛いのは、痛いんだっっ。何度も、そんな痛みを感じるなんて、絶対にするなっっ。」

「にーるぅ。」

「・・・・痛いだろ?・・・」

「あい。」

「おまえは、一度、その痛みを味わったんだ。もう、二度と味わうようなことはしてくれるな。・・・・・俺のほうがまいっちまう。」

 人間として、俺を見ているから、ニールは、そう言って嗜める。イノベイドである事実なんかより、俺は人間として存在しているのだと肯定してくれる。きっと、この言葉があるから、俺は、他のイノベイドとは違うのだ。ニールがくれるものは、そういう温かいものだ。何年にも渡って与え続けてくれたから、俺はより人間らしくなった。やはり、ニールは、俺の母親だと思ったら嬉しくて抱きついた。

「にーりゅーーーーっっ。」

「・・・おまえさん・・・・相変わらず泣き虫だな? 」

「あにゃたがなかしゅんにゃっっ。」

「・・・痛くないか?」
作品名:こらぼでほすと うまうま 作家名:篠義