こらぼでほすと うまうま
「せにゃかがいたい。でも、おれてはいにゃいていどのいたみにゃ。」
冷静に自分の身体を診断したが、これは、それほどの怪我ではない。軽い打撲程度だと判断できた。
「・・・よかった・・・・怪我されたら、アレルヤとハレルヤに、凹にされるとこだった。」
「にーるぅーはだいじょうぶきゃ?」
「ああ、いつものことだ。・・・・・急激な動作ってのが禁止されてるんだ。こうなるからな。しばらくしたら、なんともないから・・・・・・ちょっと待っててくれ。」
「どきゅたーをよぶ。」
「いや、呼ばなくてもいい。わかってるから。」
本当に呼ばなくてもいいのだろうか、と、思いながら、ニールの肩から腕を擦っていた。しばらくしたら、のそりと起き上がったので、ほっとした。
「やれやれ、随分と寝坊しちまった。・・・・何か欲しかったんじゃないのか? ティエリア。」
「みじゅをのみょおうとしたんにゃ。」
ああ、はいはい、と、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、コップに注いで飲ませてもらった。それから、ニールも、それを継ぎ足して飲んでいる。
「さて、デートを再開しよう。次は、どこだ? 」
「もういいにゃ。ここで、のんびりでしゅりゅ。」
無理をさせたいわけではないから、行き先は指定しない。日が暮れてから家に戻ればいいだろう。それまで、こちらでゆっくりと休ませようと思っていた。
「そんなに俺に気を使わなくていい。・・・・どうせ、帰るんだから、ぶらぶらと戻ればいいさ。」
「だめにゃっっ。」
「もう大丈夫なんだ。たまに、なるから慣れてんだよ。」
「おりぃは、あなたがくりゅしいかおしゅりゅのはみたくにゃいっっ。」
「・・・あ、ああ、そうか。そりゃ悪かった。じゃあ、ここでテレビな? 」
ニールが苦しいと顔を歪める姿というのは、俺には背筋が冷たくなる光景だ。だから、そう言う。ニールが、俺が死ぬ痛みを何度も味わうのがイヤだというのと、同じことだ。だから、すぐに折れてくれた。ソファに横になって、ふたりでテレビを観賞していると、刹那たちが戻って来た。
「冷蔵庫におやつがある。」
「・・・・わかった・・・・ライル、頼みが出来た。」
「なんだ? 」
「俺は、あのラウンドウォーカーで一足先に、寺へ帰るから、クルマで、ふたりを運んでくれ。」
「オッケー。なんだ、ここまできて力尽きたのか? 兄さん。」
「まあ、そんなとこだ。」
刹那とニールは、お互いの表情が読める。だから、何事か遭ったのだろうくらいは、すぐにわかるのだ。それが悔しいとは思わない。繋がりは人それぞれだ。俺には、ニールの表情は読めない。だが、俺は、ニールを従わせることができる。刹那は、ニールに言い負かされるから、それはできない。
「せちゅな、てりゃでしょくじしゅるから、ごくーにつたえてくりぇ。」
「わかった。」
とりあえずは、おやつを食べてからだ、と、いそいそと刹那も台所へ向う。腹ごしらえをして移動するつもりだろう。
別に、これっきりではない。次回、身体を取り替えたら、その時にデートすればいい。
それなら、負担をかけることもないからだ。それに季節も変わっている。
寺へ戻ったら、すでに、食事の準備はされていて、みな、食べ始めていた。しかし、よく見ると、空席は、ふたつしかない。
「刹那、ライル、おまえらは、こっち。フェルト、案内、よろしく。」
悟空が、そう言うと、フェルトが立ち上がって、俺をニールから取上げて、スタスタと廊下を歩いていく。
「え? フェルト? 」
「デートだから、食事もふたりでしてね。」
だって、私も刹那も、そうだったでしょ? と、説明しつつ脇部屋に向った。そちらに、小さい卓袱台があって、ちゃんと、部屋もクーラーで冷やされている。そこで、フェルトは俺を降ろした。
「あっさりしたものにしたよ? 」
「手伝ってくれたんだな、ありがとう、フェルト。」
「大根おろしって楽しかった。それから、ティエリア、デートの最後は、『夜明けのコーヒー』か『目覚めのコーヒー』を一緒にだよ? 」
「よあけぇ? めじゃめ?」
「こらっっ、フェルト。それは違うって言っただろ? 」
ニールは、慌てて訂正していたが、フェルトは大笑いして引き返して言った。なんのことだ? とは思ったが、ニールが困った顔をしていたので聞かなかったことにした。
「にーるぅー、たびるにゃ。」
「ああ、そうだな。・・・・・オロシ蕎麦か・・・これなら、あっさりしてるな。」
大根おろしが、たっぷりと載せられた日本蕎麦と、オクラの酢の物と切り干し大根の煮物という、とてもあっさりしたメニューだった。
それを、ざっと眺めて、ニールは笑った。デートの食事じゃねーだろう、と、言う。俺には、デートに相応しい食事なんてものが、まずわからない。
「でぇも、にーるぅーがたびるにはいいにゃ。」
「まあ、そうだけどさ。」
「たびるにゃ。・・・・・・・つぎにでぃーとすりゅまでに、おりぃがさぎゃしておくきゃからにゃっっ。・・・・つぎは、おりぃがちゃんとえすこーとするにゃ。」
「はいはい、期待しておくよ。」
次の時までに、ヴェーダの中からデートに相応しい食事なるものを検索しておこう。何ヶ月か先になるから、時間はあるだろう。それに、アレルヤと相談してもいい。お蕎麦をちゅるちゅると食べさせてもらいつつ、そんな算段をしていた。これからも、ここにずっといられるわけではないが、以前よりは、ずっと簡単に降りてこられるようになる。
もしかしたら、ニールは復帰できるだろうから、そうなったら、また以前のように一緒に働けるはずだ。ただし、マイスターではなく後方支援のスタッフとしてだ。
「あにゃたもたびろ。」
「食べてるぜ。・・・・こら、オクラも食べてみろって。これ、身体にいいんだからさ。」
「やにゃっっ。ねばねばしてりゅっっ。」
「そのねばねばが身体に、いい成分なの。」
緑の塊りを、ぽいっと口に放り込んで、もぐもぐと咀嚼している様子は、苦そうでもない。差し出されたひとつを口に入れたが、やはり、めにょっとしていてねばねばだ。こういうものは、あまり美味いとは思えない。顔を歪めたら口直しに、煮物を放り込まれる。こちらは、甘い味付けだから美味しい。それから、蕎麦だ。
ふたりなので、ニールは俺にかかりっきりになる。いつもは、他の人間がニールに用事を言うし、ニールも気付いたら手を出すから、こんなふうに、かかりっきりというのはない。なかなかデートというのは、楽しいと満足した。
「でーとたのしいにゃ。」
「そうか? 今度は、アレルヤと行って来いよ。もうすぐ戻ってくるからさ。」
「そうにゃ。」
「今だけ子供なんだから、一杯、アレルヤにも甘えとけ。」
いや、小さくなくても甘えているのだが・・・・まあ、ニールは知らないから、「はい。」と、返事だけはしておいた。
「なんだ、ミニティェとデートなのかよ。」
作品名:こらぼでほすと うまうま 作家名:篠義