こらぼでほすと プール1
ヒルダのほうは、そのことは最初から予定していたから、刹那に告げておくことにした。あまり炎天下に放置するわけにはいかないだろうから、適度に冷房設備のあるところで休ませるつもりだ、ということも、言外に伝えた。
「感謝する、ヒルダ・ハーケン。」
「うふふふ・・・・勇ましく育ったもんだねぇー。五年前は、子猫だったのに。」
「成人したからな。」
「もうちょっと、タッパは欲しいところだけど、まだ伸びるからね。せいぜい、努力して、いい男になっとくれよ? 」
五年前のニャーニャーと五月蝿かった黒子猫は、かなり大人になった。いろいろとあったからねーと内心で、ヒルダは思い出して苦笑している。あの頃から、男前ではあったが、経験が増えて、人間でないものに変化したことで、さらに磨きがかかった様子だ。それを考えていると、ヘルベルトとマーズも頬を緩めている。
「それなら牛乳だな? 刹那 」
「うるさい。だからと言って、毎回、ミルクを飲ませようとするな、ニール。」
以前よりは背は伸びたが、それでもマイスター組では一番小さいのは、刹那も気にしているところだ。ティエリアのほうが、今でも大きいというのが、ムカつくと思っている。それを知っているから、成長促進とばかりに、ニールは牛乳を飲ませようとしている。
おまえこそ栄養があるから飲め、と、刹那が叫んでいるところへ、ライルとクラウスが顔を出した。とりあえず、冷たいものでも、と、ニールが用意する。
「そうですわ、クラウスさん、明日、お時間はございますか? 」
ちょうどいいので、顔繋ぎしておこうと、歌姫様は考えた。この先、どうなるかはわからないが、まあ、いろいろとライルからの情報は流れているだろうから、取り込む方向で動くつもりだ。世界を平和に維持するためには、組織は存続させなければならない。そして、連邦との繋がりも、ある程度は必要になる。その橋渡しをさせるなら、クラウス・グラードという男は適任だ。
「ええ、空いてますよ、ラクスさん。」
「では、明日、プールで遊びますので、ご一緒いたしませんか? 」
「私なんかが伺っても? 」
「ええ、みな、喜ぶと思います。」
「では、お邪魔させて頂きましょう。」
「え? 俺は? オーナー。」
「もちろん、ライルも、スタッフは全員参加です。大きなウォータースライダーがあるので楽しんでくださいね。」
「俺の水着姿に惚れ直せよ? 刹那。」
きらりーんとウインクしてライルは、刹那にアピールなんぞするのだが、刹那は、ふうと息を吐くだけだ。毎日のように見ている全裸に、今更、何を・・・と、言いたいのだと、ニールは気付いたが、ライルに、それを説明したくない。
「俺は、きみの水着姿なんて始めてで新鮮だよ、ライル。」
反応薄いダーリンに、ぷぅと膨れそうになったライルに、クラウスが声をかける。さすが、元カレというところだ。ちゃんと、ライルが喜びそうなことを言ってくれる辺りは、経験年数の違いというものだろう。
「じゃあ、日焼け止め塗ってくれる? 」
「もちろんだ。」
ライルは気を良くして、甘えているのだが、刹那は気にした様子もない。おまえら、本当に愛し合って結婚したの? と、ニールは問い質したくなる光景だ。
さて、こちら、そのこき使われているはずのアレルヤは、繁華街へ遠征していた。キラとアスランが、出迎えを終えると、フェルトを連れて外出した。もちろん、アレルヤとティエリアも誘ったのだが、ティエリアが、「やにゃ」 と、拒絶したので居残ることになった。
だが、彼らが出かけて、ものの十分も経たない内に、「しょふとくりぃーむをたびるのにゃ」 と、我侭を言いだした。アイスクリームなら、ここでも用意してもらえるだろうが、ソフトクリームというのは難しい。つまり、外へ出るとティエリアは言った訳だ。
そのまま、寺へ帰るつもりで、アレルヤは、我侭ミニ女王様をだっこして、歌姫の本宅を出た。自分たちのマンションまで、本宅のスタッフに送ってもらい、そこから近くの大型スーパーへと足を進めるつもりだった。
マンションのエントランスの前で、クルマを見送って声をかけたら、ティエリアは、ぎゅうっっとアレルヤの首に腕を回して顔を隠した。それから、アレルヤの耳元に、「おきゃえり」 という声が届く。人前では甘えられないティエリアは、ここまで来て、ようやく言葉を吐き出した。それまでは、公式然とした対応というか、ツンツンしていたというかで、まともな言葉を話さなかった。
「ただいま、寂しかった? 」
「べちゅに。」
「セルゲイさんは、まだ時間がかかりそうだけど、命に別状はないんだって。マリーが、全快するまで付き合うって言ってたよ。」
「しょうか。おまえはいいのか? 」
マリーと一緒に居たかったのではないだろうか、と、ティエリアは思ったが、アレルヤは、ニコニコと笑って首を横に振った。親子のように仲良くしているセルゲイとマリーは、ふたりで十分だと思う。ずっと逢えないというわけではない。セルゲイは、表向きには死亡したことになっているから、全快したら、歌姫のスタッフとして復帰することになっている。だから、マリーは、それまで動かないつもりだと言われた。マリーのほうも、一応、戦死者扱いになっているから、歌姫のスタッフとして働くことは確定している。もし、CBに復帰したいと言っても、アレルヤは止めるつもりだ。もう戦わなくてもいい。そういうことは、自分がやればいいと思っている。激しい武力介入が発生しない限りは、地上に度々降りてくることもできるから、慌てなくてもいい、と、説明した。
「次の時は、マリーのところへ一緒に行こうよ? ティエリア。綺麗な街だったし、マリーが案内してくれるって。」
「しょうだにゃ。ちゅぎにゃら、おりぃも、いちゅもにょしゅがたにゃ。」
セルゲイのほうは、いろいろと思うところはあるのだろうが、見舞いについては喜んでくれた。古い話をしてくれたり、マリーとの出会いや、成長についても教えてくれた。これから、変わっていく世界を守るために、きみらは生き残ったのだから覚悟しろ、と、念を押された。
「僕らは、戦うことで戦いを止めるわけだけどさ。それでも、止める手立てであるなら、僕は、人でなしでいいと思う。・・・・セルゲイさんは、そう認めてくれた。」
「しょれでいい。おりぃたちは、てろりすとにゃのは、じじちゅにゃ。」
どう、御託を並べてもやっていることは、人殺しであることに変わりはない。人類が統一されていくのを見守るため、時には纏まらない部分は切り捨てる。それも、ソレスタルビーイングの仕事だ。ティエリアだって、そのことは理解している。綺麗事で済まない世界に住んでいるのだ。それで、いちいち落ち込んでなんかいられない。
「ありぃりゅや、しょふとくぃーむ。」
「あれ? 本当に食べたかったんだ。ごめんごめん、じゃあ、そこのスーパーまで行こう。それから、寺へお土産を買わないとね。お菓子でいいかな? 」
「いいにゃ。」
作品名:こらぼでほすと プール1 作家名:篠義