こらぼでほすと 夏休み1
大人ばかりだから、こういう時は、そういうことになる。そのうち、ニールが目を覚ましたら、酒肴を用意してもらって、のんびりすればいい。とりあえず、乾きものでも、と、ハイネが乾物置き場から、イカクンとかカキピーを引っ張り出した。じゃあ、ワタシはチューハイ、と、アイシャが勝手に作り卓袱台に並べる。
「ひとまず、平和に乾杯? あと、アイシャさんの麗わしの瞳にも? 」
「ハイネ、ウソクサイ。平和に乾杯。」
カチンとグラスを合わせて、のんびりと飲み始める。ニールは酒臭さで目が覚めたのは、それから20分後だった。
さて、こちら、オーヴへ遠征していたほうは、アスハ家のプライベートビーチで、わいわいと過ごしていた。バナナボートから転がり落ちているのもいれば、水上バイクで追いかけっこしているのもいるし、ビーチでバレーをしているのもいるという自由さ加減で、途中からカガリも顔を出した。
「フェルトッッ、会いたかったぞ。」
「カガリッッ、久しぶり。」
一月ぶりにカガリはフェルトと会った。そうめん流しの時に、無事を喜んで以来だから一ヶ月ぶりぐらいになる。どうせなら、もっと頻繁に顔を出したかったのだが、国際情勢が不安定で、勝手ができる状態ではなかったからだ。
「せっかくなら、しばらく、こっちに滞在しないか? オーヴにも綺麗な場所は、たくさんあるし、何より私がフェルトと過ごしたい。」
「うーん、みんな、明後日に帰っちゃうんだ。ニール一人にできないから。」
マイスター組がエターナルと共に宇宙に上がることは、カガリも聞いていた。フェルトは残るのだから、と、思っていたら、そういう問題が残っていた。
「三蔵と悟空は? 」
「仕事で本山へ出張してるんだ。」
「あーそうか。この時期だったか・・・わかった。無理強いはしない。」
「うん、今度から何度でも降りてこられるから、今度ね。」
「よしっっ、じゃあ、今日は存分に遊ぼう。」
と、国家元首様はおっしゃってフェルトを水上バイクに乗せて暴走したりしていたが、帰る段階になって、態度が変わった。いや、全員に対して、ではない。一人に対してだ。
「キラ、おねぇーちゃんは頼みがある。」
「なに? カガリ。」
「ここ二日の私の予定は、黙って座ってにっこりでオッケーなんだ。」
「うん。」
「代わってくれ。もう少し、フェルトと遊びたい。」
「えええーーーーっっ。」
「アスラン、おまえ、アレックスに戻ってカガリの警護の任についてくれ。キサカ、確保だ。」
キラとアスランの肩をがっしりと掴んでいたカガリが、背後に声をかけると、キサカがキラをひょいと持ち上げる。またぁー? と、キラは呆れているが、大人しい。カガリが、ここのところ忙しくしていたのは知っているから、大人しく代わってやるつもりだ。そして、アスランもやれやれと肩をがっくりと落として、そのキサカに従う。アレックスというのは、アスランが以前、オーヴで使っていた偽名で、その名前でカガリの護衛をやっていた。
「さあ、問題は片付いた。ラクス、二日ほど厄介になるぞ。」
「ええ、大歓迎ですわ。それなら、今夜は女の子だけのパジャマパーティーをやりましょう。」
「え? キラが代わるの? 無理だよ、カガリ。」
「大丈夫だ、フェルト。キラのほうが肩幅が狭いし華奢だからな。カラーコンタクトとカツラさえ被れば、誰にも気付かれない。」
キラも身長は伸びたのだが、カガリも同様に伸びている。そして、アウトドアタイプのカガリは肉体も鍛えていて、がっしりしている。対して、キラはインドアタイプだから、MSを乗りこなせる筋肉はつけてあっても、それほど目立つほどではない。つまり、身体つきは、ほとんど変わらないということになっている。
そして、フェルトは本宅へ泊まることになって、戻って来たのはマイスターたちだけだった。
「またかよ? そろそろやめろって言ってるのに。」
代わったと聞いて、ニールは、おいおいとツッコミしているが、誰も気にしていない。むしろ、よく我慢していたな、と、カガリを労っていたほどだ。アレルヤからすると、五年ぶりに、こんにちわ、だったから、変わらないので、ほっとしたほどだ。そうめんの時は、ゆっくり喋っている暇はなかったので、今日、久しぶりに話をしたからだ。
「明日には、こっちに顔を出すから、ごはん食べさせてって。カガリって、ちっとも変わってないよね。」
「一応、女性らしくはなったんだけどなあ。あいつ、うちにいると素だからなあ。」
『吉祥富貴』の関係者と会っている時は、カガリも素だ。だから、乱暴な物言いだし、腕力にモノを言わせる。
「イイじゃない? カガリらしいワ。」
「カガリが大人しくなるなんてねぇーよっっ、ママニャン。」
アイシャとハイネもツッコミだ。
「黙ってろよ、酔っ払いっっ。・・・・何か摘むか? それとも酒盛りに参加するか?」
夕方から延々と飲んでいるアイシャとハイネは、軽く酔っ払っていて騒がしい。ウーロン茶で相手をしていたニールは、ようやく開放されると喜んだ。
「ワタシ、帰るワ。」
「いや、アイシャさん、もうそこまで酔ってるんだから泊まってけ。」
「ジャア、刹那。ワタシとノミなさい。」
カモーンと呼びつけられて、刹那が卓袱台に座る。ライルも来い、と、ハイネに呼ばれて同様に座り込む。
「ティエリア、風呂入って寝ような? 」
「あい、ねみゅい。」
ティエリアは、すでに電池切れしているので、アレルヤと風呂に入ってもらう。寝かしつけたら、ハレルヤは飲みに来いと、こっそりとニールは囁いて、自分は台所へ入る。また、さらなる酒盛りになりそうだから、摘むものを補充するためだ。ちくわにきゅうりを通して切ったものや、モッツァレラチーズとトマトのオリーヴオイルかけだとか漬物とか簡単なものを用意する。それらを卓袱台に載せると、刹那が立ち上がった。
「あんたは、ティエリアと寝ろ。」
「え? 刹那? 」
「後はアレハレルヤが、どうにかする。あんたも風呂に入れ。」
風呂場へ連行されると、今度は上半身を脱いでいたアレルヤを連れて戻ってしまった。残っているのは、ティエリアだけだ。
「にぃーりゅ? おりぃとふろにはいるにゃ。」
「うん、そうだな。」
パジャマ一式は、全員分こちらに準備してあるから問題ない。とりあえず、風呂から上がったら客間ともうひとつの脇部屋に布団を敷いておけば、屍になっても、どうにかなるだろうと、ティエリアを風呂に入れることにした。一応、向こうでシャワーで洗ってきたらしいが、髪の毛を洗い直して身体も洗う。
「はい、目を閉じろ。お湯かけるぞー。」
ティエリアも大人しく目を閉じて下を向く。全身泡だらけにして、ざっとお湯をかけたら終わりだ。ざぶんと湯船に沈んで、うぷーと二人して息を吐く。
「楽しかったか? 」
「あい。うみはしょっぱいにゃ。」
「あーそうだなあ。でも、浮力はあっちのほうがあるから楽に浮かんでられるだろ?」
「よくわきゃらにゃい。にゃみがおもしろかった。」
「波は海だけだもんな。」
「ふにぇにものったじょ。」
作品名:こらぼでほすと 夏休み1 作家名:篠義