町内ライダー
辰巳シンジは、他の取材に行かなければいけないと帰っていった。
残ったユウスケは、ライダーについて手がかりがあるという、城戸の所属するOREジャーナルのサイトを、城戸から教えてもらっていた。
OREジャーナルというのは、携帯電話向けにニュースを配信しているのだという。
そこに一つ問題があった。
「あの……俺、iPhone使ってるんですけど……対応してますかね?」
「……ええと、どうなんだろう」
OREジャーナルの記者、城戸真司の答えは頼りない事この上なかった。
そう。世の中には、携帯電話でしか見られない、スマートフォンお断わりの携帯サイトというものが、多数存在する。そんな事を知らずにスマートフォンに機種変更し、ユウスケは何度か苦汁を飲んだ。
「あっ、もしもし島田さん? あのさ、うちのサイトって、iPhone対応してる? ……そんなバカバカ言わないでよ。……ユーザーエージェント、とか専門用語言われても……うん、うん、えっ、島田さん使ってるのがiPhoneなの? はー、そりゃ知らなかった。はいはい、分かった、ありがとね」
城戸真司が、どこかへ電話をしたようだった。携帯電話を畳みしまうと、城戸はにっこりと笑ってみせた。
「担当者に聞いたんだけど、iPhoneでも大丈夫だって! さっき送ったメールから飛んでみてよ」
「何か、わざわざすみません」
「いいっていいって。うちのお客さんになってくれるかもしれないしね」
人の良さそうな明るい笑顔で城戸が答える。かなり気さくで、会ったばかりのユウスケの、恐らくは意味の分からない質問にも親身に対応してくれる。好感の持てる人物だった。
先程城戸から送ってもらったメールに記載されたURIを開く。ブラウザが起動し、OREジャーナルのトップページが表示された。
「うーんと、少し下の方に特集ってとこがあって、その中に都市伝説シリーズのバックナンバーがあるよ」
画面を下にスクロールさせると、確かに『都市伝説シリーズ』と書かれたリンクがある。その文字をタップし開く。
バックナンバーの記事を開くと、ユウスケの顔には驚愕の色が浮かび、そして、それはやがて驚きを通り越して呆れへと変わっていった。
居すぎだろ、ライダー。
暗闇でファイズエッジを構えるファイズがいるかと思えば、電王もいる。響鬼と威吹鬼が何故かファンガイアと戦っているかと思えば、キャッスルドランが空を飛んでいる。ファイズに似ているが、身体を走る線が黄色で複眼が紫のライダーなど、ユウスケが見た事がない者もいた。
一体この世界はどうなっているのか。
まるで、あちこちの世界からライダーを全部集めたみたいだ。
「あの……この写真、城戸さんが全部?」
「半分位は投稿写真だけど、後は俺が撮ったよ」
「……よくいるんですか、こういう感じの人達」
「うーん、太鼓の撥持ってる奴はよく見るよ。他はそうでもないけど、なんか俺、遭遇率高いんだよね」
多分城戸は嘘はついていないとユウスケには思われた。そういう嘘をつけそうにないタイプに見えた。
一体何が起こっているのか、それはまるで分からない。そして、ユウスケと士が、この世界で何を為すべきなのかも、まるで見えてこない。
「……何で小野寺君は、仮面ライダーに興味があるんだ? この写真の連中は、仮面ライダーなのか?」
茫然としていたユウスケに、城戸から、当然抱くであろう疑問が投げられた。
協力もしてもらったし、頼めば言い触らしたりはしない人に見えたから、話してもいいかもしれない。ユウスケはそう思った。
「記事とかにしない、って、約束してくれますか?」
「ああ、それは約束する」
「実は俺も、ライダーなんです」
打ち明けると、城戸は途端に表情を凍り付かせ、厳しい顔でユウスケを見た。
「……君も、何か叶えたい願いがあるのか?」
「……えっ」
「ライダーバトルに参加してるんだろ」
城戸は低い声で、有無を言わさぬ迫力を込めてそう聞いてきた。だが、ユウスケには全く心当たりがない。
困惑をあからさまに顔に出して、弱々しい声でユウスケは質問を投げた。
「ライダー……バトル、って、何ですか?」
「えっ、違うの……?」
城戸はぽかんとした顔を見せた後、やべっ、と言葉が書かれているかのような、間の悪い気まずそうな顔をした。
「まあ一応、皆の笑顔を守りたいなー、っていう目標はありますけど……」
叶えたい願いといえばそれかもしれない。そう思って口にすると、城戸はひどく驚いた表情を見せた後、やや目を潤ませてユウスケの眼を真っすぐに見つめてきた。
「……あの、俺、何か変な事でも言いました……?」
「違うんだ……俺今、すっげー感動してるんだ……! まさか君みたいな素晴らしいライダーがいるなんて……!」
「いや別に、そんな大したもんじゃ……」
それがクウガとして、ライダーとして当たり前と考えているユウスケは、恐縮して困った顔をしてみせたが、城戸の感動は止まらないらしい。ぶんぶんと大きく、首を何度も横に振った。
「君みたいな奴が……君みたいな良い奴が、どうしてライダーなんかに……!」
「……あの、城戸さん? 何か城戸さん、ライダーについて、随分詳しそうな感じがするんですけど……」
ユウスケがツッコむと、城戸は、やべっ、と書いてある言葉が読み取れそうな、慌てた顔をした。
城戸の抱いている仮面ライダーへのイメージについても、よく分からない。ここまで感動を見せるとは、余程酷い目にでも合わされたのだろうか。
「あ……あーっ! おおお俺、そろそろ、もど……もも、戻らなきゃ! じゃあまたっ!」
「はい……また連絡します、有難うございました」
ははは、と、やや引きつった笑いを頬に浮かべて、城戸は慌てて走り去っていった。
城戸についてもよく分からないが、まずはライダーだらけらしいこの世界についてだ。士に話さなければいけない。
一つ息を吐いて、ユウスケは写真館への帰路を歩き始めた。