町内ライダー
クリーニングに出したスーツは後日配達してくれるのだという。
店を出て、渡と太牙は、少し離れた通りに停めた車へと向かった。
西洋洗濯舗・菊池の周囲は路地が細く、店の前にはサイドカー付きのバイクなどが停めてあったため、場所がなかった。
外に出ると、草加が黙々とサイドカー付きのバイクを洗車していた。あまり関わり合いになりたい相手でもないので、側を足早に通り過ぎる。
車に辿り着くと、渡は通行人の中に、ここでは見かける事はないと思っていた顔を見つけた。
「……あの?」
声をかけると男は立ち止まり渡を見たが、顔には誰だお前と書かれている文字が読み上げられそうな不審の色。
「ザンキさんのお知り合いッスか?」
「……いや知らん。青年、俺に何か用か?」
隣にいた背の高い男の声に、戸惑ったような声色で答えを返して、どう見ても次狼にしか見えない男は渡を見た。
「あ……いえ、あの……双子のお兄さんとか、いらっしゃいますか?」
「? 生憎だがいないな」
「知り合いによく似ていたものですから……お引き止めしてしまってすいません」
ぺこりと頭を下げると、どう見ても次狼だが別人の男と連れの若い男は、首を捻りながら去っていった。
この世には、自分に瓜二つの人が最低三人いるのだという。
だからといって、こんなに一度にそっくりさんが来る事はないんじゃないだろうか。
どこかおかしさを覚えつつ、具体的に説明出来ないモヤモヤした気分を抱えて、渡は太牙に続いて車に乗り込んだ。
後日、太牙が散髪をして、襟足などさっぱりしてやけに嬉しそうにしていた。
聞けば、園田真理は美容師見習い。彼女の勤める店を聞いて、切ってもらったのだという。
兄が嬉しそうなのは喜ばしいけれども何とも複雑。草加というあの青年が黙っていない予感もする。
渡は、そうなんだ良かったね、と半ば投げ遣りに答えつつ、困り切った顔に無理矢理笑みを浮かべた。