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町内ライダー

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 宵闇に誘われ、昼の間しがらみに束縛されていた人々は、今日という一日の責務から解放されて、夜の街へと吸い寄せられていく。
 その空間は、名護が狙う賞金首達が好む場所でもあった。
 人混みを縫って、名護は早足で歩いていく。その後ろを睦月は懸命に追った。
 弟子入りするということは、単に戦士としての力を鍛えるだけにあらず。心を、生き方を学ぶべし。名護は睦月に何かを具体的に教えようとはせず、自分の後を着いて歩かせた。
 睦月はすっかり名護を立派な人間として崇拝している。名護の言葉を疑う余地などない。
 剣崎は、気掛かりのあまり、そんな二人の後を追っていた。
 やはり賞金首などそう簡単に見つかるものではないのだろう。月曜日は何事もなく過ぎた。
 いっそ三日間何も起こらずにいてくれればいい、と思った。
 睦月の性格なら、次第に具体的な指導をしない名護に苛立ちを覚えるだろう。もし一時的に橘が負けたとしても、睦月が業を煮やした時に、戻ってくるよう説得はできる。
 それより、体術の未熟な睦月が、巻き込まれて怪我など負いはしないか、という事の方が気懸かりだった。
 二人の歩く速度は速い。見失わぬよう必死に後ろ姿を追いながら、剣崎も足速に歩いた。
 やがて、名護が足を止めた。続いて睦月が立ち止まる。少し後ろで剣崎も足を止め、脇の路地に入って物陰から二人を見た。
 名護の前には、体格のいい、険しい目をした男が立っていた。
「西本孝二だな」
「何だお前?」
「振込め詐欺グループを組織して多額の金を詐取していた件で、お前の首に賞金がかかっている。大人しく罪を認め、悔い改めなさい」
「……はぁ? アホか?」
 西本は唸ると、名護へと飛び掛かった。雑踏の人垣が軽い悲鳴を伴って割れた。
 西本のパンチを名護は軽く避けた。何となく躱したように見えるが、動きを見れば、西本という男も何か武道の心得があるように見える。名護啓介は気に食わない男だが、実力は確かなのだろう。
 だが問題は、睦月が、自分は手を出すべきではないと判断できるかどうかだった。
 悲しいかな、剣崎の心配はすぐに現実のものとなってしまった。
 周囲の人々は西本が動き出すと、気配を察して道を開け避けていたが、勘が鈍いというべきか、逃げ遅れた少女が一人いた。
 見たところ中学生位だろうか。
 名護の動きに合わせて西本は少女の方へと駆け出す形となる。睦月がそれを放っておける筈がない。
「このっ!」
 睦月が西本を取り押さえようと飛び掛かるが、軽く躱されると、睦月の背中に肘が入る。
「君は下がっていなさい!」
 名護が今更叫ぶが、遅きに失している。
 どうする、飛び出して睦月を助けるべきか、少女を庇うべきか。
 だが、剣崎に助けられれば、睦月は態度を硬化させ、ますます話がややこしくなる危険もある。
 剣崎が躊躇する間に、西本は倒れこんだ睦月を目がけて脚を振り下ろしていた。
「危ない!」
 横合いから名護が西本に体当たりをぶつける。脚は睦月には振り下ろされず、西本はバランスを崩した。
 好機とみたのか、名護は体勢を崩した西本に殴りかかるが、西本は予想外に素早くバランスを立て直し、名護の拳を躱していた。
「うざったいんだよっ!」
 すぐさまカウンターの形で、名護目がけてパンチが放たれた。さしもの名護も躱しきることができず、大きく後方に吹き飛ばされる。
 それを見るや、長居は無用と判断したのだろう。西本は素早く踵を返し、走り去っていった。
「あっ、待て!」
「止しなさい!」
 睦月が後を追おうとするが、鋭い声で名護に制止され、動きを止めた。
 睦月は俯いて立ち止まり、名護は立ち上がって、ぱんぱんと服の埃を払った。
「……すいません、名護さん。俺が余計な事をしたせいで」
「君は、己の力量を知る所から始めなくてはいけないな。勇気があるのは結構だが、実力が伴わなければ蛮勇にすぎん」
「……はい」
 答えた睦月の声はしょんぼりとしていた。心底堪えているのだろう。信じたものに対してまっすぐで懸命な所は、睦月の美点だ。
 へたりこんでいた少女が立ち上がって、睦月にぺこりと頭を下げて去っていったが、睦月は多分気付いていない。
 アンデッドも、封印せずに話し合い分かり合う事が出来ないかと言い出すような睦月の優しい心根が、剣崎は好きだった。
 だけれども、それをすぐに分かれとは、三日で分かれとは、言えない。
 本当ならば、今すぐにでも飛び出して行って、睦月の事を名護に説明したい気持ちが剣崎にはあったけれども、そんな事をしても何にもならないし、余計に話をこじらせるのは目に見えていた。
 道の先、西本が逃げていった方から罵声とざわめきが聞こえて、やがて消えた。名護も睦月も動かないで、そちらを見ていた。
「そんな奴に謝ってやる事はないのよ」
 やがて、人垣を割って現れたのは恵だった。憔悴した顔の睦月は、しょんぼりとしたまま顔を上げて恵を見た。
「西本は捕まえておいたわよ。感謝しなさいよ、啓介」
「余計な事を……と言いたい所だが、助かった。しかし、君は俺達の後をつけていたのか」
「渡君の時の事を見てれば心配になって当たり前でしょ」
 つらっと言い切った恵に、名護は特に反論しなかった。
 渡、といえば、今橘が預かっている、名護の弟子という青年だ。何があったのかは剣崎は知るはずがないが、名護の様子を見ていれば、心配になる恵の気持ちは良く分かる気がした。
「ま、負けたのは俺じゃない、とか言い出さないだけ進歩したって所かしらね」
「当然だ。それは過去の俺だ、今の俺とは違う」
「はいはい分かった。さ、帰りましょう。君もあんまり遅くなったら学校に差し障るでしょ」
 しょんぼりしたままだったが睦月は恵の言葉に素直に頷いて歩き出した。
 飛び出して行って睦月を励ましたかったが、それでは今まで何のために飛び出すのを我慢したのかが分からなくなる。
 俺一体何してるんだろう。考えたが、明確な理由などない。ただ剣崎は居ても立ってもいられないだけだった。
 これは睦月の問題なのだという事は、最初からよく分かっていた。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ