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町内ライダー

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 約束の木曜日はあっという間にやって来た。
 午後五時、名護と橘、渡と睦月、そして恵と剣崎は、名護達の行きつけというmald‘amourに集合していた。
「じゃあ、さっさと終わらせちゃいましょ。さ、渡君に睦月君、どっちがいいか教えて」
 あまり興味もなさそうに恵が口にしたが、渡も睦月も何か口を開き辛そうな顔をして黙ったままだった。
「何なのよもう、男の癖にはっきりしないわねえ」
「ちょっと待ってくれ。二人の意見を聞く前に、俺から言いたい事がある」
 恵の言葉を遮ったのは橘だった。何? と恵が尋ねると、橘は一度俯いて、意を決したように顔を上げた。
「名護啓介……俺は君に、睦月を預けたいと考えている」
 その発言内容に、その場の誰もが凍り固まった。その言葉は、名護啓介さえも予想もしていないものだった。
「…………は?」
「なな、な、何言ってるんですか? 橘さん?」
 あんぐりと口を開けながらも、ようやく恵と剣崎が言葉を発するが、橘はそれには特に返答しなかった。
「紅渡は、俺が鍛える必要などない。これだけの優れた戦士を育てる事が出来る男ならば、睦月も君に預けた方がより強くなれる、そう思った」
「……あの、だから、何度も言ってもますけど、正直僕はあまり名護さんには育てられてない……」
「何という素晴らしい男だ、橘朔也……! 俺は今まで君の事を誤解していたようだ!」
 渡のツッコミは、橘にも名護にも届かないようだった。渡の言葉を遮って、名護は感動を素直に面に現して橘を見ていた。
 このままでは纏まる話も纏まらない。名護と橘以外の四人は頭を抱えた。
「……だから、啓介、ちょっと黙って。橘さんだっけ、あなたも。今回のルールは何だっけ? 渡君と睦月君が判定するんだったわよね? あなた達の意見は聞いてないわけ。……分かる?」
 強い。妻は強い。立ち上るオーラが見えるかと思えるほど、恵からは反論を許さない一触即発の空気が漂っている。
 その只ならぬ殺気に、勿論名護は何度も縦に首を振って黙り、橘も気圧されたのか口を噤んだ。
「じゃああの……僕、今は師匠とか鍛えるとか考えてません。二人のうちどっちがいいかって聞かれても……」
「俺は……名護さんに鍛えてもらうにはまだまだ力不足だって思ったから、自分の力に納得できる所まで自分でやってみたいって思います。それに、橘さんが俺の事本当に考えてくれてるんだっていうのも、良く分かりました。だから俺も、どっちって選べないです……」
 ようやく口を開いた渡と睦月、二人の答えに、恵は長く溜息を吐いた。稀に見る優柔不断が二人揃って、こんな事で結論が出る筈もない。
 要するに、引っ掻き回されて特に何も得るものもなく終わった、という事だった。
「……だそうだけど、それでいい?」
 振り向いて名護と橘を見れば、二人とも大きく頷いていた。
「師匠と弟子、という間柄ではなくても、俺はいつだって君達の力になるつもりだ。悩み事があれば何でも相談しなさい!」
「俺もいつでもお前達の力になる用意はある」
 そう言った二人の笑顔は実に爽やかだった。睦月の顔も、ぱっと明るくなる。
「名護さん! 橘さん!」
 見つめ合う三人の間に生まれていたのは、紛れもなく固い信頼だった。
 そしてそれは残り三人の間に、喩えようもなくげんなりとした空気を流し込む。
「まさか……啓介と同レベルで話が通じない相手がいるなんて……私も予想してなかったわ」
「……僕一体何のために…………」
「何か、済まないな、渡君……」
 三人は揃って大きく息を吐くが、そんな空気を読める相手だったなら、そもそも溜息など吐く必要はなかったのだ。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ