町内ライダー
無事脱出に成功した三人は、ミラーワールドを進んでいた。
「全てが鏡合わせか……」
辺りを見回して矢車が呟く。浅倉は見慣れているのだろう、その言葉には反応を見せない。
「あ……あ、あ、兄貴っ!」
「どうした弟」
あまりにも情けない声を上げるので振り向くと、影山は今にも泣き出しそうな様子で顔をくしゃっと歪めて、右手を矢車に突き出してみせた。
「なんか俺……溶けてる、気がするんだけど……!」
突き出された右手からは、しゅうしゅうと何かの粒子が立ち上ぼり、空気へと溶けて消えていた。慌てて矢車は自分の右手を見た。同様に粒子が立ち上ぼり消えている。右手だけではない、全身から立ち上ぼり始めている。
「……そういや、ライダーは十分位大丈夫だとか、生身だとすぐ御陀仏とか、言われた気がするなぁ……」
「先に言え、先に!」
「誰だってど忘れくらいする」
矢車の抗議を、浅倉は肩を竦めただけで流してしまう。
「兄貴……オーロラが……オーロラが見えるよ……ああ綺麗だなぁオーロラ」
「ちょっと待て、それは幻だから待て弟!」
足をふらつかせて影山が力なく笑った。矢車が肩を支えて呼び掛けるが、浅倉は興味を失ったのか、一人でさっさと歩いていった。
結局、二人はパンチ・キックホッパーに変身。クロックアップを発動して時間流を操作、事なきを得る。
浅倉は何だかんだで、最高に楽しい殴り合いの場を提供してくれた二人を(彼なりに)気に入ったらしく、時々捕獲したヤモリやヘビを手土産に、地獄兄弟の寝ぐらへと遊びにいくようになったのだとさ。
とっぴんぱらりのぷう。