二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

町内ライダー

INDEX|60ページ/72ページ|

次のページ前のページ
 

「ああ、妙案だ。大した妙案だよ全く……」
 まるで蟹のように横歩きしながら、剣立は苦々しく吐き捨てた。
 ゆっくりとゆっくりと、慎重に。剣崎が押さえて開いてくれている、マルダムールの入口ドアを目指す。
「これで効果ゼロだったら、僕達何やってるんだって話ですよね……」
 渡もうんざりした顔で、剣立に合わせた歩調で、ドアを目指す。
 人肌は暖かいものだが、別に今それを実感したくはない。凍えてもいなければ人恋しくもない。背中に感じる温もりがやや厭わしい。身体を動かすと当たる硬い肩胛骨の感触など、言語道断だった。
 キバットの提案した妙案。それは、剣立と渡が身体を密着させて入店すれば、ブルマンは懐くべきか拒絶すべきか混乱して、動きを止めるのではないか、というものだった。
 流石に正面を向き合って密着するのは双方が拒否した。肩を抱き合うよりも密着度を高めるため、背中合わせに腕を組んで、横歩きの姿勢となった。
「……何か、悪いな、付き合わせちゃって」
「いいですよ、気にしないで下さい。こんな方法じゃなきゃもっと……良かったんですけど。あっ、段差ありますから気を付けて」
 渡に注意を促されて、剣立はそっと下を覗き込み、慎重に歩を進めた。
 漸く入口ドアを潜り、店内へと入る。当然の事ながら、マスターも他の客も、異星人でも見付けたような唖然とした顔で二人を注視した。
「……やっぱり、恥ずかしい……ですね」
「ああ、すっごく、恥ずかしいな……」
 剣立も渡も、顔に浮かべた倦怠の色を濃くして息を吐いた。
 ブルマンが犬小屋から飛び出してくるが、どうすればいいのか分からないのだろう。不思議そうな顔をして、二人の周りをただぐるぐると旋回している。
「渡くん……あなた、一体何してるの?」
 唖然とした顔で、カウンター奥に座っていた恵が、引きつった声で質問を投げた。答える言葉が浮かばず、渡は曖昧に笑ってみせた。
「考えたわね……本当なら不審者の入店はお断りしたいところだけど、渡くんを不審者扱いも出来ないわね」
 完全に呆れ果てた声で、マスターにも声をかけられる。渡はやはり、引きつった笑顔を返す他なかった。
「よし……じゃあ、激甘ガトーショコラとブレンド、お願いします!」
 カウンター席に前のめりに座って、漸く念願叶った剣立は、目を輝かせて注文を告げた。
 今はもう、組んだ腕は解いている。剣立は椅子に浅く腰掛けて、余ったスペースに、背中合わせのままで腰をぴたりとくっ付けて渡が座った。
 二人が席についてもブルマンは困惑したままで、足元をぐるぐると回っている。経過を見守っていた剣崎も安心したのか二人の隣に腰掛け、コーヒーを注文した。
「紅さん、ホント、ありがとな……後で何でも奢るから、考えといてよ」
「別にいいですって、気にしないで下さい。ちょっと、いや大分恥ずかしいですけど、大した事してませんから」
「紅さん……いい人だなあ!」
 感極まったのか、剣立はやや鼻に掛かった声で呟くと、目尻を拭った。
 渡にしてみれば、ここまでして食べたいという剣立のケーキへの執念は理解しがたいものだったが、何にせよキバットの目論見は見事当たったのだ。
 上手くいった。そう、何もかもが、上手く運んだ筈だった。
 ドアが開く音がした。入口を見て渡は、驚愕に顔を引きつらせた。
「……渡くん、君は…………何と破廉恥な! 公衆の面前で、しかも男とそのように腰を寄せあって! 君がどんな性的嗜好を持とうとそれを云々は出来ないが、恥を知りなさい!」
 唖然としてみせた後、名護啓介は厳しく顔を引き締めて、憤然と二人の元へと、大股で歩み寄った。
「ちょ、待ってください名護さん、誤解です、これには深い理由が……」
「色恋沙汰の事情など、公俗良序を乱す理由になるか! 離れなさい!」
 渡の言葉に耳を貸さず、名護は渡の手首を引っ掴むと、強く引いた。渡はよろけて姿勢を崩しながら、椅子から降りて前のめりに、二三歩、名護へと歩み寄る格好となる。
 まずい、と思った時には、既に時遅し。
「バウゥッ!」
「ぎゃーーっ!」
 虎視眈々と機会を伺っていたブルマンが、剣立に飛び掛かるのを止めたければ、マッハかクロックアップでも、使うしかなかっただろう。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ