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町内ライダー

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 甘味処たちばなから出てくる筋骨隆々の男を辿れば、妖怪には辿り着ける。
 その結論を得て、翔太郎は再び、トランペットを吹いていた優男の尾行を開始した。
 妖怪と戦う組織があるという事は、妖怪は人に仇なす可能性が高い。亜樹子は連れずに、一人で青年の後を追う。
 彼は河畔に到着すると、キャンプのバーベキューセットのような机をしつらえた傍に立つ少女に、何か話し始めた。少女は白いキャップにパーカー、ジーンズ、河川敷に運動でもしに来たような、動きやすそうな出で立ちをしている。
 河川敷は見通しがいい為、会話が聞こえる距離まで近付く事ができない。
 何を話したのかは不明だが、少女はテーブルの上に置いたケースを開けると、笛と思われるものを腰から取り出し、口に当てた。
 澄んだ音が響く。行動の意図は分からないが、美しい音色だ。だが翔太郎は、次の瞬間繰り広げられた衝撃の光景に、声こそ洩らさなかったものの、あんぐり開けた口を閉じるのを忘れ見入った。
 ケースの中から、次々順番に順序よく、何かが飛び出してくる。
 それは青い四つ脚だったり、緑でゴリラのように見えたり、真っ赤な鳥のような形をしていて、ケースを飛び出すと四方八方へと散っていく。翔太郎の足下を、手の平サイズの青い狼のようなものが駆けていった。
 ――何だ、ありゃ……?
 今の光景を形容する言葉がない。フィリップの作ったメモリガジェット達もある程度の自律行動は可能だが、なんだかスケールが違いすぎる。
 手品か何かの練習に違いないと思えれば気も楽だろうが、妖怪退治で手品もあるまい。
 青年は椅子に腰掛けて、少女が魔法瓶から紙コップに注いだ飲み物を渡す。何とも平和な光景だった。
 もし今の光景が、妖怪退治の為の何かならば、今は翔太郎も動くべき時ではないのだろう。
 暫くは、のんびりと茶を啜る青年と少女を見守る以外、する事を失う。
 今の結構な量のミニ動物ガジェット達は何の為に放たれたのだろう。もし翔太郎が同じ事をするなら、ローラー作戦による目標の捜索が目的になるだろう。
 人力を使えば非効率な作戦だが、あれだけの数が放たれたなら、(もし河童が実在すれば)意外に早く見つかるだろう。
 そこまでぼんやり考えて、翔太郎には、よく分からなくなった事があった。
 そういえば、何でこんな必死に河童を捜しているのか?
 河童の実在情報をマスコミに売り込み、金銭や知名度を得るのが目的だったような気がする。
 然して、あの猛士の所属と推察される青年が河童を見付けだせばどうなるか? 彼は河童を退治し、よしんば写真が撮れたとしても、合成と一蹴される懸念の方が高い。
 つまり、翔太郎は実は、青年に先んじて、河童を見付け出し、あわよくば生け捕りにしなければならない、のではないだろうか?
 こんな所でのんびりしている場合ではなさそうだった。そっと立ち上がり駆け出す。
 少し深く注意を向ければ、少女の放ったミニ動物がそこかしこを駆け回っている。空を見ると、一羽の紅の鳥が、翔太郎が今来た方角へと、ややたどたどしく飛んでいた。
 方角はあちら、河童と断定は出来ないが、何事かが起こったとは推察できる。
 暫く走ると、橋の下に人影らしきものが三つ。だが、一つは明らかに人間ではない。残り二つは、着物に烏帽子。
『Joker』
「ビンゴだ! いくぜ、フィリップ!」
『オーケイ』
 走りつつガイアメモリを起動、腰にダブルドライバーを当てれば、ベルトを介して意識の繋がった相棒の声が響く。起動させた切り札の記憶をドライバーにセットするとすぐに、右側に転送されてきたサイクロンメモリを押し込みセット、畳まれたドライバーを開いて起動する。
『Cyclon, Joker』
 駆ける翔太郎をつむじ風が包んで、過ぎ去る頃には仮面ライダーダブルが走っていた。
 三対一では数の上で不利。生け捕りのため力の加減も必要。となれば、中距離で敵を圧倒できるメタルがベターな選択と思われた。
『Metal――Cyclon, Metal』
 駆けつつボディ側のメモリを素早く交換、背中につむじ風が生み出したメタルシャフトが生成され、ダブルはそれを手慣れた様子で取り外し、右手に握った。
 河童と思われる異形は、何かに真上から食らい付いていた。
 大きく開いた口から背広の脚に見えない事もないものが二本、はみ出して、横に革靴が右、左一つづつと、財布が落ちていた。河童の足元の土は、黒く湿っている。
「おいおいおい、洒落んなってねぇぞ、マジで河童が失踪事件の犯人かよ!」
「気を抜かないで、来るよ!」
 和装に烏帽子の男女は、土気色した肌に、頬の削げた容貌をしている。男女共目をかっと見開いて奇声を上げ、どこから取り出したのか刀を振り上げダブルを迎え撃つ。
「ここは風都じゃねえけどよ、街を泣かせる奴は容赦しねえぞ!」
 シャフトを振るうと旋風が巻き起こる。元々のリーチの長さに暴風の威力がプラスされて、男女は刀を振るうも、容易にはダブルに近寄れない。
 利有りと見て、ダブルは女の着地点を鋭い突きで狙った。女は野太いバリトンの罵声を上げて躱すが、巻き起こった風にバランスを崩し尻餅をついた。
 ソプラノの奇声を上げて猛然と斬り掛かる男も、冷静さを失っている、敵ではない。シャフトを払い払い、後退ったところに鳩尾への突き。避け切れず軽く食らって、男も背中から倒れこむ。
 河童へと向かうが、河童は口を大きく開いて、何かを吐き出した。払おうと咄嗟に顔を庇う体勢でシャフトを構えると、河童の吐き出した何かが左手に当たり絡みついた。
「何じゃこりゃあ!」
 透明な粘液だったそれは、左手をシャフトと共に絡めとると、瞬時に白く凝固した。同時に、米袋でも乗せられているような重量が左手首にかかる。
「うおっ、おっ、重てえ! おいフィリップ!」
「ふむ、燃やしてしまうか」
『Heat――Heat』
 飛びかかる河童の体当たりを避けつつ、右手が器用に片手でメモリを起動、ドライバーのソウルサイドメモリを交換する。
 真紅に変化した右半身、その掌が炎に包まれて、左手首を掴む。粘液が凝り固まったものを燃やし尽くそうとすると、ドライアイスが発するような猛烈な勢いの蒸気がダブルを襲い包んだ。
「うごっ、げふっ! ……えっ、なな、何じゃ、こりゃあ!」
 アンモニアを沸騰させたような猛烈な臭気に襲われるが、異様な重さの塊は煙幕と引き換えに蒸発し燃え尽き、左手は自由となる。
「さすが妖怪、中々奇怪な現象を起こすね」
「感心してる場合か! でもまあ、これで動けるな、よくもやってくれたなこの河童!」
 やや鼻声でボディサイドが吠え、シャフトが横に払われてから、緑の河童を西瓜のように、唐竹割りに脳天から殴りつける。
 当たった、と思った瞬間、奇妙な事が起こった。
 河童の首が、甲羅から、にゅるん、と殴られた勢いに負けて、抜けて地面にたたきつけられてしまったのだった。
「え…………?」
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ