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町内ライダー

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 殴りつけた当のダブルも声もなく驚愕し、固まってしまう。その間に甲羅からは新しい頭が生えて、落ちた頭は受精卵が成長する過程を早送りしているように、尻尾が分かれて手足となって、あれよあれよと見ていれば、もう一匹河童が増えていた。
「ふふふ、増えたーっ!?」
「増えた、増えた!」
「子供が増えた、可愛いな、わあいわあい!」
 ボディサイドの絶叫に、弾んだ声で和装の男女が答える。
『ななななな、何なんだこいつら……! ……って何だ、何だこの声!』
 ボディサイドは驚きの声を上げるが、自らの喉から発せられた筈の声が、翔太郎を更に驚かせた。
「…………翔太郎……? 何だい、その声は」
『俺が知るかーっ! なんで俺のハードボイルドなテノールボイスがこんな事になっとるんじゃーっ!』
 それは丁度、ヘリウムを吸った後の声そのものだった。VTRを音声ごと八倍速再生をしているかのような甲高い声がボディサイドの脳天から響く。
「喋らないで……くれないか……ぷっ、くくく……」
『おまっ……フィリップこら、笑ってんじゃねえ、俺たちゃ今戦ってんだぞ!』
「だって、君のその声だって、今戦ってるようには……ぷぷっ……」
 嗜めれば逆効果、泥沼だった。下手に河童を殴ればまた増えるかもしれない、和装の男女ももう立ち上がって斬りかかってくる。先程まで優勢だったダブルは、四方からの攻撃を躱すのに手一杯の状況に陥ってしまった。
 河童が吐き出す粘液を躱し切れずに、右肘と左の脛に白く重い結晶が纏わり付く。動きは精彩を欠いて、このままでは非常にまずい事は明らかだった。
 とうとう進退極まる。四方を囲まれ身動きもままならない。その時。
「はーっ」
 昼下がりの縁側で背中を伸ばしているような、平和な声が響いたと思うと、河童が一匹背中に何かを食らい吹き飛ばされる。進行方向に立っていたダブルも巻き込まれて、河童とくんずほぐれつ絡み合って、やや湿った橋桁下の地面に倒れ込んだ。
「イブキー、あきらにカッコ悪いとこ見せたくないのは分かるけど、ちゃんと働いてよ?」
「分かってます分かってます、ここはどうしてもヒビキさんの力が必要だから」
「なーんか乗せられてる気がしないでもないけど、まいっか。よーし……」
 異形が二体、佇んでいた。
 黒と金に、紅。裸なのか違うのかも良く分からない、異様に発達した筋肉に覆われた体躯を晒した二体の人型が、太鼓の撥のようなものを手に構えていた。
 二体には顔がない。顔面は鏡面のようになっており、緩い陽光を照り返して光るばかりで表情など読み取れない。
 二体は特に何の合図もなく駈け出し、紅が河童を撥で殴りつけ、黒と金が男女と渡り合う。ダブルがどかした河童も紅が引き受ける。
「あー、そこの半分こ君、何者か知らないけど、残念ながら君にはこいつらは倒せないよ。下手に君が手ぇ出すと増えて厄介だから、逃げてくれるかな!」
『どういうこった!』
「あーあ、その声、河童にやられちゃったんだ……こいつら魔化魍っていってね」
「ヒビキさん!」
「おっとっと、話しちゃいけないんだった。とにかく、そういう、事だか、らっ!」
 ダブルに語りかけ、黒と金に窘められつつ、紅の、先端に炎を宿した太鼓の撥が河童の胴を捉えた。河童は四五メートル吹き飛ばされると、破裂し塵となって四散した。
「……ここは、彼の言う通り撤退した方がよさそうだね。河童探しは無駄足になってしまったようだけど仕方ない」
『お前がそう言うんなら、仕方ねぇな……おい、誰だか知らねぇけどありがとよ、後は頼んだぜ!』
「大丈夫、鍛えてますから! 気をつけて!」
 紅の奴は余裕があるのか、撥を持ったままこめかみの横で右手の指を立ててポーズをとってみせた。
 悔しくはあるが仕方がない。ダブルがあれだけ手こずった河童を苦も無く砕いたのだ、この紅と、トランペットの青年と同じ声をした黒金は、妖怪退治のプロなのだろう。フィリップの検索の通りに。そして、恐らく何らかの事情によって、ダブルではあの妖怪は倒せないのだろう。
 しばらくして戻ると、既に戦いの痕跡は消えていた。静かに水音だけが響く河畔で、落ちたままの革靴と財布だけが目についた。溜息をつくとスタッグフォンを取り出し、翔太郎は照井へと電話をかけた。
作品名:町内ライダー 作家名:パピコ