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魔王と妃とその後の魔界

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「とは言っても、流石に死ぬ程のモノでは無い」
 ラハールがにやにやしながらそれを遮り、
「まぁ、見ておれ。結果的に、フロンの兵隊が増えるだけだからな」
 何だかとっても不穏な台詞を口にした。





 そして。
 悠々と歩くラハールの後に続き、兄弟悪魔が到着した場所には、瀕死の悪魔達に慌てて癒しの魔法をかけている天使の姿。
「あっ!!ラハールさんっ!!まだ“これ”掛けたままだったんですねっ!?」
 こちらに気付き、怒った様にそう言ってくるのは件の天使。
 魔王の妃、ラハールの妻。フロンである。
「仕方なかろう。お前が自分の身を守れんのが悪い」
「うっ……。で、でも、防御系統の魔法なら…」
「接近されて、直接手出しされたらどうにもならんだろう」
「うぅぅ………」
 事実である。
 確かにそうなったら抵抗するのは難しいし、ラハールの言っている事も理解はできるのだ。
 ただ、目の前で業火に焼かれる様を見るのは心臓に悪すぎる。
 それが敵と言えども、殺すまでは至らない威力に加減してくれているものでも、だ。
 自分を心配してくれているのだという事も解るから、結局強くは言えないのだけれど。
 …今回は留守番だと言われていたのに、まんまと連れ出された自分にも非があるし。
「で、魔法が中断されたせいで死に掛けのそれは放置でよいのか?」
「きゃあぁっ!?ご、ごめんなさいっ!!今治しますからねっ!!」
 ラハールに言われ、呻き苦しむ悪魔に癒しの魔法をかけ直すフロン。
 その様子にくっくっく、と喉の奥で笑うラハールの気配を感じつつも、フロンはその悪魔達が十分に回復するまで魔法を中断する事は無かった。



 最後の悪魔に魔法をかけ終え、一息。
「終わったか?」
「はい」
 近付き、声を掛けるラハールに、フロンが笑みで返す。
 力を使った為に消耗し、汗も浮かべているのに健気な事だ、と内心で苦笑しつつ。
 フロンに治療され、戸惑い、どう動くか迷っているのだろう、沈黙しながらもこちらを窺っている悪魔達に意識を向ける。
「では貴様等に問うぞ。オレ様に忠誠を誓うか?まだ敵対するつもりなら、オレ様が殺してやるからそう言え」
 その言葉に、悪魔達がざわめく。
「ラハールさん、そんなすぐには決められませんよ」
 咎める様に言うフロンに、ラハールはふん、と鼻を鳴らす。
「ここで決められん様な連中なら、正直いらん。大体、お前を狙う時点で配下に欲しいとは思わんのだ。寛大なオレ様の、最大の譲歩だぞ?」
「でも……」
 眉尻を下げ、言い淀む。だが、きっ、とラハールを見据え、
「でも、殺しちゃうのはやりすぎです!!」
「だが、こいつらを生かしておけば、いつかオレ様が殺されるかもしれんのだぞ?」
「ラハールさんは殺されません」
 きっぱりと、フロンが言い切った。
 強い眼差しで、ラハールの赤い瞳を見つめる。
 その眼差しを真っ向から受け、数瞬の後。
「……お前は頑固だな」
 ふ、と表情を緩め、柔らかい声でラハールが言った。
「わたしは、ラハールさんを信じてますから」
 ふわ、と、フロンが微笑んだ。
 不安があっても、心配はしても、それでも信じているのだと。
 こそばゆくなってぽりぽりと鼻の頭を掻きつつ。
「……あー、そういう訳で、オレ様の敵はどっか行け。今は見逃してやるから、喧嘩売るならまた今度にしろ」
 ぶっきらぼうに言い捨てる。
 悪魔達はそれぞれに顔を見合わせ、何事か言い合っていた様だったが。
 その内に、一人の悪魔が声を上げた。
「……俺は、アンタが魔王だとはまだ認めねぇ!!」
 空気が一瞬張り詰める。
 しかし、
「だが、その妃には従ってもいいぜ!!」
 続いたその言葉に、
「オレも!!」
「俺もだ!!」
 共鳴する様に、賛同の声が次々と上がる。
「え、あ、あのっ!?」
 わたわたするフロンに、悪魔達から様々な声が投げられる。
「あんたを陥れ、魔王を亡き者にしようとした俺達への慈悲……惚れたっ!!」
「悪魔としては屈辱だがな……アンタについた方が得策だろうさ」
「魔王の下より天使の下にいる方が面白そうだ」
 それぞれに主張は違えども、フロンに従うという一点において、意見は一致した様だった。


 その騒ぎから少し離れた場所に立ち尽くすのは、ラハールに連れられて来た兄弟悪魔。
「………なんだこれ」
「………何が起こったんだこれ」
 一連の流れとその結果である目の前の光景に、呆然としながら兄弟悪魔が呟く。
 その耳に、くっくっくっ、と、愉しそうな笑い声が聞こえた。
 もう覚えてしまったそれは、ラハールのものだ。
「言っただろうが。フロンの兵隊が増えるだけだと」
 確かに言った。
 だが、どういう事なのか。
 命を救われたからと、こうまでなるものなのだろうか、と。
 そう視線で問われ、ラハールがにやり、と笑う。
「…大天使の力も加わっていると言っただろう?」
「……おい、まさか……」
「何か他の術も……?」
 引き攣りながらの兄弟悪魔の台詞に答える様に、
「フロンはどうせ、そいつらに癒しの魔法を使うだろうからな。それらの力が作用し合って、少しばかりその力を持つ者に傾倒する様になるだけだ」
「………洗脳じゃないのかそれは………」
「問題無い。素質の無い者にはそれほど効かんし、一時的なものだからな」
 フロンの身の安全が優先という事だ。
 癒しの魔法をかけ、全快した連中に直ぐ様襲われでもしたら元も子もない。
「オレ様としては、別に洗脳でも構わんのだがな…」
 そうなるとフロンが煩いだろう、とラハール。
 因みにその作用の全てはフロンには明かしていなかったりする。大天使もそこは承知済みだ。
 あいつは結構えげつないぞ?と大天使ラミントンを評するラハールに、兄弟悪魔は言葉も無い。
 俺等、大変なの相手にしちゃったんじゃね?な感じで顔を見合わせた。
 ラハールはそんな兄弟悪魔に苦笑し、未だフロンに声を掛ける悪魔の一団へと目を移し。
(……まぁ、少しばかり気に入らんがな)
 内心で呟く。
 大天使の力が使われているというのと、それによってフロンの傍にいたがる連中が増える事自体が、だ。
「…あの中の何人が残るかはわからんが、な」
 そう口の中で呟き、ふと、遠くからの足音に気が付く。
 一つや二つの足音では無い。
 見れば、土煙を上げてこちらへと向かってくるその集団。
 まだ敵がいたのか?と思いつつ、よく見てみれば。
「……城を任せると言っただろうが」
 苦笑と共にそう言うラハールの表情は、どこか嬉しそうだった。
 そしてその集団の存在に、その場の全員が気付く頃。
「フロンちゃんに変な事したらぶち殺すわよあんたらぁぁぁっ!!!」
 プリニー達を引き連れて駆けて来たエトナが、フロンを取り囲んでいた悪魔達に、そんな怒声を放ちつつ。
「エトナさんっ!?ちょっ、待っ…」
「どけやぁぁぁっ!!」
 慌てたフロンの声も聞かず、取り敢えず手近な悪魔へ有無も言わさず飛び蹴りをかますのだった。



「もー、ダメじゃん、フロンちゃんたら!!呼び出されたからって、一人でついていくとかさー」