比翼連理 〜外伝〜
2.ペルセフォネ 〜決意〜
―――黒き翼の鳥はほんのひと時を過ごし、再び遠く果てしない闇へと飛んでいった。鳥となって、ひとりの男の元へと毎朝訪れた、かつてのわたしのように。
ただ違うのは隔てられた扉の存在。
頑なに閉ざす心の扉の存在。
すっと瞳を閉じ、扉に置かれた小さな命を招き寄せる。水晶のような透明な輝きを放ち、光の加減によって様々な色を見せる不思議な花。黒き鳥が摘んできた花の囁きに耳を傾ける。
『......永劫の闇に光を与えて』
―――闇に突き落されたのに?
『永劫の闇に愛を与えて』
―――愛を引き裂かれたのに?
『永劫の闇の呪縛から......あの御方をどうか、解き放って......』
消えていく小さな命。
最後の言葉が胸に届いた。
―――おまえたちはあの黒き鳥を愛しているのか?
どれだけの月日が流れたのか。繰り返される儀式。
今もまた黒き鳥は扉の外で飛び立った。
わたしに何を求めているのか?
強引に連れ去ったではないか。
今更わたしに何を求めているのだ。
招き入れた小さな命は今日もまた囁く。
『永劫の闇に光を与えて』
『永劫の闇に愛を与えて』
『永劫の闇の呪縛から、あの御方をどうか、解き放って』
小さな命たちの願い。
叶える術がわからないまま、ふと思う。扉の外に広がる沈黙の花園......。
彼らもまたこの花と同じく、わたしを愛し、悲しみにくれるわたしを静かに見守ってくれていたのだろうか?
立ち上がり、扉の前に立つ。ゆっくりと開いていく扉。一斉に花開いていく花々たち。
囁きあう歓喜の声。舞い上がる小さな魂たちの光が花園に満ちた。温かな想いに包まれる。
「......おまえたちの仲間に入れてやっておくれ」
そっとニュサの地に冥界の花を刺すと、光を発した。新たな命が芽吹いた。
「ありがとう、おまえたち。わたしはもう.......嘆いたりしない」
地上に戻ろう。光溢れる世界に。愛しき者が待っている世界に。