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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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20. 求想



「これを……あなたにお返しします」
 そっと大事そうに抱えていた剣をアテナは現れ出でたハーデスに差し出した。
 導かれるままにアテナがこの地に降り立った時は既にシャカの存在はなく、途方にくれていると再びシャカはタナトスを伴ってこの地に舞い戻ってきたのだと、アテナはハーデスに語った。ちらと周囲を窺うと近くにはタナトスの姿があったが、何事かを思惟に耽っているのだろう。瞳を閉じたまま木に背凭れ、身動ぎひとつしなかった。
 ハーデスは久方ぶりに手にした剣を鞘からするりと抜き放つと、その輝きを確かめるように陽に翳した。ハーデスの手に戻った剣は愛しげに煌めく。
「貴女には迷惑をかけたようだ」
「いえ」
「―――が、アテナよ、これは一体?」
 ほんの少しいつもとは違う違和感を覚え、探る眼差しをアテナに向ける。
「私の中に在った力……あなたの剣に託しました。そうするべきだと、判断致しました」
 アテナはそのまま、つらそうに顔を俯いたまま唇を噛み締めた。
「シャカはこの先に。私たちはここで待ちます。手出しは一切致しません。むろん、タナトスも同じく」
 ちらりとハーデスが顔を向けると、タナトスが小さく頷いた。
「配慮いただき、感謝する」
 カチリと鞘に剣を収め、緑深き木々を静かな瞳でハーデスは見定めた。
「……どうあっても、避けられぬのでしょうか」
 心許無げに梢を揺らす風のようなアテナの言葉に僅かに顔を曇らせたハーデスであったが、それはほんの瞬きほどの間でしかなかった。
「そうあるものと定められたものならば。そして何よりも……あの者がそれを望んでいるのならば……余はその望みを叶えるしかあるまい」
 固い信念ともとれる言葉を告げたのち、ハーデスは緑に染まる景色の中へと姿を消していった。
「それでも、私は……貴方たちを信じたい」
 アテナは静かに囁いた。まるで、深い祈りを捧げるように。