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比翼連理 〜 緋天滄溟 〜

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21. 滄溟



 キンッ・・・・・!

 弾かれ、弧を描きながら飛んだ剣が大地に目深く突き刺さった。一連の動きをひとつひとつ切り取って、滄溟の瞳に焼きつけながら、大地に身体を傾けた。
 純粋なる破壊の力は遥かに己を陵駕していた。

  その力をもってすれば、
  一片の思念さえ残すこともなく余を消し去ることができるだろう。

 痺れきって、まともに動かすことさえできなくなった、ただの付属物である両手足をハーデスは大地に縫い付けられたように投げ出し、静かに瞳を閉じてその刻が訪れるのを待った。
「――――なぜだ?その手を振り下ろせば、すべてが終わる」
 身を投げ出したように横たわる身体の上に馬乗りになったまま、最後の一手を宙に縫い留めた己を見下ろすシャカを見た。
 なんという表情をしているのだろうと思う。

  心が、震える。

 そのまま引き寄せ、抱き締めたい衝動に駆られるほどに。
「――――っ……できぬ!おまえを消すことなど……できぬ!!おまえを愛しているのはペルセフォネではないから!――――たとえ、おまえが心傾けているのがペルセフォネだとしても。おまえを愛しているのは……他の誰でもない……この私自身なのだから―――っ!!」
 張力を失って溢れ出た透明な滴。
 頬を伝い、零れ落ちた。きらきらと輝きながら慈雨の如く、己の頬を濡らした。



  ―――気付いた時にはその目映いばかりの暁の光に心奪われた。
  正義を貫こうとする気高い精神(ひかり)に心惹かれ、囚われた。
  羨望と憧憬と共に芽生えたのは激しい嫉妬、情念、渇望……。
  それが……その思いが幻影となっていく。
  遠い記憶の彼方へと遠ざかっていく。
  永遠を誓った愛が安らかな眠りへとついていくのを感じる。
  
  静かに、

  静かに、

  融けていく。

  優しき時の中へ、想い出の中へと。



 そして―――。