oasis
2.
その頃、セフィロスの部下も頭を抱えていた。古代兵器と謎の嵐により敗退、おまけに大将が行方不明、前例にない損害に帝国軍基地本部より怒りの入電多数……ウータイ駐屯基地は総動員でフルスロットル状態になっていた。
「くっそ!こっちだって天災と凶悪兵器相手に被害甚大負傷者多数だけど死人がヒトケタなのを褒めてほしいくらいだってぇの!本部はそんなに暇かッ!クソッタレのボンボンめ……あーこりゃリーブ少佐まいどおおきにー遠征予算オーバーした請求は神羅家のぼっちゃんに願いますよっオレはもう知りませえん!そんじゃっ!あークッソ、オレも南の島へ遭難しにいきてえよセフィロース……」
「ならばお前が行くかザックス?セフィロス捜索部隊を編成する。ただし、ナハ島付近の予報は神風接近中、だ。南の海にダイブしたいのなら加えてやらんでもない」
「……なあアンジール。戦場で華々しく散るのと南国の海に儚げに沈むの、どっちがオンナノコに受けると思う?」
「俺はどっちも願い下げだが、お前にもセフィロスにも儚げという言葉が似合わないことはよく知っている。そして残念ながら前者の確立の方が高いな。ウータイナハ砦に動きありとの報せだ。また戦闘が始まるぞ。一六〇〇にポーチに集合!」
「リョーカイッ!」
海岸沿いを一通り廻ってきたセフィロスを出迎えたのは無人の魔導アーマーだけだった。砂浜に置いてきた子供の姿はない。足跡を追うと、南国らしい大きな葉の茂る藪へ続いている。無事なのは結構だが、姿を消されるのは厄介だった。
「出てこい。とって食ったりはしない」
足跡とは反対の岩場に向かって声をかける。影で隠しきれていない気配が動いた。捕食者に怯える動物のそれによく似ている。しかし辛抱強く隙をうかがうような窮鼠の気配だ。セフィロスはわざとらしくため息を声に出した。
「溺れ死ぬところだったお前を助けてやった報酬がこれか。ウータイの兵士は恩を刃で返すが礼儀か」
「……」
岩場から金髪が覗いた。かしん、と刃を鞘に収める音がし、ようやく子供は岩陰から出てきた。裸足の足が危なげに岩を渡る。靴は恐らくあの藪に置いてきたのだろう。なかなか知恵が回る。
「……とりあえず、礼を言う」
海水でやられたのか、掠れた声だった。敵兵に助けられた屈辱でふてくされた表情を隠していない。セフィロスにとってそれは意外な反応だった。制圧の地に立って憎悪と嫌悪の反応を向けられることはあったが、すねた子供の反応にどう対処すべきか惑う。それは子供の方も同じらしく、所在なさげに足が砂を蹴る。
「水は」
「は?」
唐突に投げられた言葉は短く、不意を突かれた子供はぽかんとセフィロスを見上げた。
「水は持っていないのか」
「ない、けど」
「藪の向こうに水場がある。ついでに砂を払うといい」
「あんたは?」
「もう済ませた。安心しろ、俺には岩陰に隠れて子供を脅かす趣味はない」
子供の眦がキッとつり上がる。が、文句の言葉は出てこなかった。警戒心こそ失っていないものの、セフィロスに向ける感情は敵兵への憎悪ではなかった。まさか同じウータイ兵と思っているわけではあるまいに。妙な子供だ、とセフィロスは大またの足取りで藪へ向かうその背を見送った。