oasis
程なくして戻ってきた子供はクラウドと名乗った。砂を落とした金髪は白金に近く、目は碧眼、制服を着ていなければウータイ人と分からない。セフィロスと同様に西の大陸人の顔立ちをしている。ウータイ移住民の志願兵か、拉致されて教育された兵士か。今までの反応を思い返し、おそらく後者だろうとセフィロスは考察する。魔導アーマーと共に攫われてきたのではないか、と。それでも不可思議な点は多すぎる。
検分するような目で自分を見るセフィロスに、クラウドはむっつりと口を開いた。
「あんたの名前は知ってる……セフィロス。ガストラの死神」
死神、と言った割りにクラウドの口調には、やはり畏怖や憎悪の色はなかった。単純な不機嫌が滲んでいる。
「ガストラの殺人兵器に乗っているくせによく言う。お前はアレが何か知って乗っているのか」
「知ってる。アレは、オレにしか操縦できないから。だからオレはここにいる」
尊大な物言いにセフィロスは眉を寄せた。まさかとは思ったが、浮かんだ予測を口にした。
「お前は、ガストラの……ソルジャーなのか?」
「……元志願兵だった。適性で落とされたけど」
クラウドは指摘を肯定した。あっさりと明かされた誤算の正体に、セフィロスは驚きを禁じえなかった。
「元ガストラ兵がなぜウータイ側にいる?魔導アーマーもお前が持ち出したのか?どうやって?」
「それ、尋問?」
「だとしたら」
「オレは、今はウータイの兵士だ。口を割るわけにはいかない。拷問でもしてみるか?もっとも、そんな元気があるなら、救援が来るまで生き残ることにエネルギーを注いだほうがいいと思うけどな」
安い挑発に、セフィロスはため息をついた。確かに、ここで疑問が氷解しても自分が助かるわけではない。不毛だ。
それきり、しばらく沈黙が流れた。クラウドは倒れた魔導アーマーの方を向いてはいるが、視線は定まっていない。海と空がその先に広がっている。島影は見えない。日差しは強いが、徐々に黄みを帯びてきている。夕暮れが近い。
埒が明かない。セフィロスは提案した。
「一時、休戦?」
「そうだ。見たところこの島は無人だ。目に見える範囲に島はない。お互い救援を待つ間飢え死にたくはないだろう。オレはウータイの地利に詳しくはない。ウータイ民のお前なら知ることもあるだろう。気候の特徴、採取できるものがある程度わかればいい。歴史でもいい。俺はデータ上の知識はあるが、実際に見て触れたことはない。例えばあれを」
セフィロスは頭上のヤシの木を指差した。
「実を食えるのは知っているが、あいにくと食べ方を知らん。生で食えるものか、火を通さなければならないのか、そんな程度の知識でいい」
「…あれは中にジュースが入ってて、穴を開けて飲むんだ。実はそのまま食べてもいいけど、蒸し焼きにして食べたり…食べたことないけど」
「それだけ分かれば十分だ。採取や狩りは俺がやる。ギブアンドテイクだ」
「オレも狩りくらいできる」
憮然とした表情がさらに凶悪なものになった。力を見くびられるのは、子供とはいえ一端の戦士にとって屈辱を煽った。が、セフィロスは追い打ちをかけるようにその顎を指先で持ち上げた。
「口を割れとはもう言わん。慰安を、と言いたいところだが、子供に手を出す趣味はないな」
その言葉に、見る見るうちにクラウドの頬が真っ赤に染まってゆく。顎にかかった手を振り払って、腰のホルスターに手を回した。鞘から抜いたナイフが振り払われるが、空振りした。軽やかに身をかわしたセフィロスに、クラウドは噛みつかんばかりの勢いで怒鳴る。
「オレは、男だっ!」
セフィロスは改めて子供を見下ろした。からかいと警告を含めて子供を辱めた言葉だったが、男に向けたつもりはなかったのだ。
興奮でほの赤い頬はまだ輪郭が柔らかい。それを縁取る肩にこぼれた金髪は癖づいて、女の巻き毛のようにも見える。
「…それは失礼した」
素直な謝罪の言葉に、クラウドは長く息を吐いて興奮を収めた。年の割りに低い身長と童顔はクラウドのコンプレックスだった。肩口の金髪を手で梳き纏めようとするが、癖が強くてうまくまとまったためしがない。纏め縛っていたゴムは嵐の際になくなってしまったようだ。
「ともあれ、日が沈むまでに寝床を確保する。しばしの間協力願おう、クラウド」
「…わかった」