化物語 -もう一つの物語-
008
それから僕は勉強をし、夕飯を食べ風呂に入り(火憐と月火の喧嘩は、月火の勝利という形で一応収まったようだ。しかし、月火が勝利するとは珍しいことである)、さあ、寝ようかと思ったら、着信音が部屋に鳴り響いた。
相手は戦場ヶ原である。
こんな時間に何の用かと思いながら、電話に出る。
「もしもし、僕だ」
「え? 僕? それって、新手の詐欺かしら? ちゃんと名前を言って頂戴」
「……阿良々木暦だ」
「そう。よかったわ阿良々木くんで。本当に詐欺師かと思ったわ」
「何で戦場ヶ原の方から電話を掛けてきたのに、電話に出た相手を疑うんだよ」
「え? だって阿良々木くんになりすました詐欺師かもしれないじゃない」
「そんなことがありえるのか!?」
「阿良々木くんを拉致監禁したりね」
「そんなことをしたのは戦場ヶ原、お前だけだ!」
「それでも、阿良々木くん。私は過去に五人の詐欺師に騙されているのよ。警戒して当たり「前じゃない」
「確かにその通りだが、最初のことは誇らしげに言うことじゃないぞ、戦場ヶ原」
「それは置いておいて、阿良々木くん」
「はいはい、分かったよ」
「『はい』は零回よ、阿良々木くん」
「それは返事をするなと言うことか!?」
「返事をしなかったら、殺すわよ」
「『はい』は零回と言ったのはお前だろ!」
話が脱線してしまった。
閑話休題。
「で、何だ。戦場ヶ原」
「阿良々木くんが夜遅くまで何をしているのか気になって電話したのよ」
「思った以上に内容がくだらない!」
「嘘よ」
「嘘を吐くな!」
「でも阿良々木くん、嘘は誰でも吐くもの――ふう」
「最後までちゃんと言えよ!」
「え? 何? 阿良々木くんは彼女に最後までちゃんとものを言うように強制する程酷い人間だったのね……。つまりあの優しさは嘘だったと……私よりたちが悪い嘘つきね」
「本気で言うなや!」
「まあ、夜分遅くに申し訳ないわ、阿良々木くん」
「別にいいけど……」
「ああ、でも、私ちゃんと阿良々木くんに、電話をするかもって言ったのよね……。だったら別に申し訳ないと思わなくてもいいわね」
「心遣いが非常に嬉しかったのに、否定が早すぎるよ、お前は」
「気にしないで頂戴。それ以上文句を言ったら、殺すわよ」
「文句を言っただけで殺されるのは嫌だけれど、文句を言ったつもりはない! 一切ない!」
「まあそう怒らないの、阿良々木くん。ブレスレット、ブレスレット」
「やっぱりお前らはヴァルハラコンビだよ!」
神原と同じ意味で同じ言葉を使うとは!
「阿良々木くんが落ち着いたところで……話を戻すわよ」
「おう……」
「一つだけ、阿良々木くんに言っておきたいことがあってね」
「何だ?」
「明日、渡したいものがあるの」
「渡したいのも?」
「ええ。だから、楽しみにしていてねって言うのと――」
ここで戦場ヶ原は酸素を吸って、楽しそうに、
「このことを忘れて明日一秒でも遅れたら私はあなたを躊躇なく殺すわよ」
と恐ろしいことを言って、電話を切ったのだった。
「……明日は早起き決定だな……」
そう呟いて僕は携帯を折りたたみ机に置き、電気を消して、就寝した。
……そう言えば、明日、何時にどこに行けばいいのだろう。
聞いてないぞ、戦場ヶ原。
そんなことを思っていたら、メールが来た。
相手は戦場ヶ原である。
電気をつけるほどじゃないので、電気をつけずに、僕は携帯を開き、メールを確認する。
ちなみに、本文は、
『そうそう。言うのを忘れていたけれど、明日は六時三十分に私の家に来て頂戴。一秒でも遅れたら、さっき言ったみたいに、殺すわよ。ああこれ、本気だから。全く……彼女の手を煩わせるとは……少し考えて頂戴。じゃあ、阿良々木くん、おやすみ』
だった。
……最後の方は容赦ないな……全部本音だろう。
そう思いながら、僕は戦場ヶ原に『了解した』と返信した。
そして再び携帯をたたみ、、就寝した。
――ここまでが僕の『日常』。
そしてここから先は。
僕にとって、『異常』だった。
作品名:化物語 -もう一つの物語- 作家名:神無月愛衣