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神無月愛衣
神無月愛衣
novelistID. 36911
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化物語 -もう一つの物語-

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009



 今までの簡単な今あらすじ。
 夏休みが明けて数週間ほどが経ったある日のこと。
 僕は彼女の戦場ヶ原と一緒に、昼休みに彼女の手作り弁当を食べ、放課後に羽川と一緒に教室に残って仕事をし、その後下校して、帰宅途中にBL小説を買うために全力疾走で大型書店へ向かっていた神原と立ち話をし別れ、歩いていると今度は千石と会って、今度一緒に遊ぶ約束をして、やっとのことで家へと帰り、帰って早々火憐と月火に絡まれ、喧嘩を始めた二人を置き去りにし部屋へと行き、着替えたら、影から出てきた忍とそれっぽい話をして、神原に電話をし、勉強をし、夕飯を食べ、風呂に入り、寝る前に戦場ヶ原から脅迫電話(?)が掛かり、少し話して、最後に就寝して、この日は終わった。
 僕の数時間の話に八章も費やしてしまったにもかかわらず、文章に簡単にまとめてみると、そんなに長くはなかったな……。
 僕達は、一体どれだけ会話しているのだろう。
 喋りすぎである。
 まあ、それは置いておいて。
 とにかく、この次の日からだ。
 僕の日常が、百八十度変化したのは。


「兄ちゃん、朝だぞ」
「おーきーろー」
「ん……っ」
 僕は今日も、いつものように火憐と月火に叩き起こされた。
 ……しかし、今日はいつも以上に眠い。
 ……二度寝しよう……。
 勢いよく襲ってくる眠気に負けて、僕が寝るために寝返ると、
「起きろって言ってるだろ! 兄ちゃん!」
「ぐはあっ!」
 火憐に殴られた。
 しかもグーで。
「――痛ってえだろ! 手加減しろや!」
 只でさえお前は格闘技をやっているんだからさ!
 ――と、僕は勢いよく起きあがった。
 その瞬間。
「――!?」
 僕は再び寝てしまった。
 否、倒れ込んでしまったという方が正しい。
 身体が怠い――倦怠感を感じる。
 頭痛がし、身体が熱い。
 しかし――悪寒を感じる。
 そんな僕の様子を見て二人は、僕の元に直ぐさま駆けつけた。
「兄ちゃん、大丈夫か!?」
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
「だ……い……じょうぶ……」
「大丈夫じゃねえな、これ!」
「風邪かな? それとも、インフルエンザ?」
「でも月火ちゃん。インフルエンザの時期はまだだぞ」
「そうだね、火憐ちゃん。じゃ、風邪だね」
「兄ちゃんが風邪!? 大変だ!」
「そうだね! 今日は雨が降るかもね!」
「そうだな! しかし、馬鹿な兄ちゃんが風邪を引くなんて本当に珍しいな」
「いや、火憐ちゃん。私はお兄ちゃんより火憐ちゃんの方が馬鹿だと思うよ」
「実の姉に向かって何てことを!」
「実は本当の――本物の姉妹じゃなかったりしてね」
「酷い!」
「お前達は一体いつまで会話してるんだよ!」
 僕は突っ込んだ。火憐と月火に、勢いよく。
 その所為でさらに怠くなった。
 風邪が悪化したじゃねーか……。
 文句を言うために――本日初めて――火憐と月火を捉えると――
「――どういう……ことだ……?」
 火憐と月火。
 僕の二人の妹。
 九月上旬、現時点での二人の髪型は、火憐がショートヘアで、月火が腰以上のロングヘア。
 だったはず――なのに。
 僕の目に映る二人の髪型は――
 ポニーテイルと、肩までのロングヘア。
 夏休み前の二人の髪型だった。
「何で……二人とも……髪型が違うんだ? ……火憐ちゃんがショートヘアで……、月火ちゃんが腰より長い……ロングヘアだったのに……」
 二人と会話をしたくても、上手く喋れない。
 風邪――の所為か……。
 ん――? 風邪?
 何か気になるなあ……。
 ……ちなみに、そんな僕の問いに対して、二人は、
「はあ? あたし達、髪型変えてねーし」
「そうだよ、お兄ちゃん。今までもこの髪型だったじゃない。……まあ、私は定期的に変えているけれど」
 こう反応した。
 ……本当にどういうことだ?
 二人とも、壊れたのだろうか。
 この二人の反応を見ると、おかしいのは、僕の方らしい。
 ……何かが変だ……。
 『何か』が――おかしい……。
「そう……だっけ……」
「そうだよ兄ちゃん。あたし達三人とも、髪型は前とは変んないぜ」
「そ……う……か……。――ん?」
 ん? 何だ?
 今の引っ掛かった感じは――
 火憐ちゃんの言葉には、これとは別に――何かがおかしかった……。
 気のせい――なのか?
「それよりお兄ちゃん。ちょっといいかな?」
「ん? 何だ?」
「熱、計るね」
「あ? ああ……」
 と、体温計(しかしどこから出したんだ?)を僕の脇に挟まして、熱を計る。
「ねえ、お兄ちゃん」
「何だ、月火ちゃん」
「お兄ちゃん、昨日まで私達のこと『でっかいほうの妹』と『ちっちゃいほうの妹』って呼んでいたのに、呼んでいた筈なのに、何で急に呼び方変えたの? 前みたいに『火憐ちゃん』、『月火ちゃん』呼んじゃって……。こうやって呼ばなくなったの、お兄ちゃんなんだから」
「え? 何言っているんだ? 僕は一、二ヶ月前からこう呼んでいるだろ?」
「え? 全然」
「……どうしたんだ? お前達……どこかおかしいんじゃないのか?」
「『どうした』とか『どこかおかしい』のは兄ちゃんの方だよ。一晩寝て、おかしくなったのか?」
「おかしくなってねえよ!」
「じゃあ、あたしより馬鹿になったのか?」
「お前、自分で馬鹿って認めたのか!?」
「いつもあたしの馬鹿って言うのは、兄ちゃんだろ!」
「そうだとしても、認めちゃ駄目だろ!」
「……お兄ちゃん、火憐ちゃん。熱、計り終わったから。話さないでくれるかな? 体温計が、取り出せないから」
「…………」
「…………」
 黙り込む僕と火憐。
 理由は、月火を見れば分かる。
 殺気が凄い……!
「……けっこう熱が高いね……。お兄ちゃん、今日は学校を休んだ方がいいよ」
「え……そうか……だったら、言っておかないとな……」
 羽川と戦場ヶ原に。
 特に――戦場ヶ原だ。
 戦場ヶ原は僕の彼女だし、なにより今日は、一緒に学校へ行く約束をしていたのだ。
 何か渡したいものがある――らしい、から。
 ……休むと怒られる気がするが……まあ、仕方がないことだ。
「……火憐ちゃん……携帯……取って……」
「携帯? ああ、はい」
 机に置いてある携帯を取って、僕に渡す。
「誰かに電話すんの?」
「ああ。今日は休むからな」
「そうだな……。そうだよな……ん? 電話って……ああ、翼さんにか」
「ああ。後、戦場ヶ原にもな」
「せんじょうがはら? 誰、それ?」
 戦場ヶ原の名前を聞いた瞬間、火憐はきょとんとした表情を浮かべた。
「は? 前に紹介しただろ? 僕の彼女だって……」
「彼女!? 兄ちゃん、彼女いたの!?」
「だから前紹介しただろ!」
「紹介されてねーぞ。てか、そのことを聞いたことねえよ」
「…………?」
 本当に……どうしたんだ? こいつら……。
 ぼけているのだろうか?
「あ! あれだ! 兄ちゃん、ゲームの話だろ、それ」
「いや! 現実だよ!」
「現実から目をそらすな、兄ちゃん」
「そらしてねえよ!」
 何でそうでないことで妹に諭されないといけないんだよ!
 そんな僕達の会話をずっと聞いていた月火は、きりがいいところで言った。
「とにかく。今日は休みだからね、お兄ちゃん」