顔に怪我
しっかり養生するんだぞ。
そう言って先輩は部屋を出ていったあの暴君のことだから、
よもや包帯をほどかれ顔の傷を見られるのではないかなどと多少の不安はあったが、杞憂に終わって良かった。
早く元気な顔が見たい…
その一言が耳に残っている
新野先生によれば、私の傷は感染の恐れなどは無いものの、傷痕が完全に消えるかどうかは分からないらしい。
まぁあれだけの傷を作り、消える可能性もあると言う方が驚きだ。
大小はあれど、私の顔に傷は残るのだろう…傷そのものの痛みよりも、傷痕を作ってしまうことの方が余程辛かった。
そっと指先が顔に触れる。
未だにじくじくと熱を持ち、私を苛め苦しめた。
この傷をつけた相手が憎かった、そしてそれ以上に傷を負った自分が憎かった。
ふと部屋の前に人の気配を感じ、喜八郎が帰ってきたのかと思えば、襖を開けた先に居たのは七松先輩の級友である、中在家長次先輩だった。
中在家先輩も私の姿を見て、ほんの僅かだが、悼ましそうに目を眇めた。
―どうされましたか?
そう声をかければ、先輩はすぐにいつもの堅い表情へと戻る。
すっと手を差し出され、何事かと惑っていれば
―傷薬だ。
と、低く深い声で呟かれた。
ハッとして先輩の顔を見る。
中在家長次先輩…いつからなのかは分からないが、先輩の顔には傷がある。
傷が出来る前はよく笑うヤツだった、と七松先輩が言っていたか
小さな貝に入った薬を受け取り、長次の気遣いに感謝を述べる