聖なる夜
対照的に、シュラは顔をしかめる。
「なんだって」
「別に嫌がらせをしたいわけじゃない」
厳しくなったシュラの視線をアーサーはあっさりと受け止め、話す。
「さっき言ったとおり、仕事だ。その仕事がクリスマスまでかかりそうだからな」
「そうとう厄介な仕事なのか?」
シュラの視線が違う意味で厳しくなった。
ついさっきまでは申請して許可のおりていた休暇が上司の権限で取り消されようとしていることに対して腹をたてていたのだが、今は仕事の内容が気になっている。
表情が真剣なものになる。
アーサーがうなずいた。
「最近、大物の悪魔を逃がしてしまったことがあっただろう? あれを検証してみて、気がついた。どうやら身近に悪魔と内通している者がいるらしい」
「このヴァチカン本部の祓魔師がか?」
そうシュラが問うと、アーサーはふたたびうなずいた。
アーサーの顔から笑みは消えている。その彫りの深い顔は力強くもあり、また、それとは真逆に繊細であるようにも見える。
シュラはアーサーに言われた内容について考える。
魔を祓う祓魔師だが、悪魔の力を借りることもあったりするので、むしろ普通の人間より悪魔とつながりがある。
それに悪魔は人を誘惑し、弱みにつけいるのが得意である。
だから、祓魔師が悪魔側に寝返ることはめずらしくない。
シュラはアーサーの整った顔を眺めながら問う。
「アタシがその内通者だとは疑わないのか?」
アーサーは少し笑った。
そして。
「シュラ。おまえは悪魔落ちしない」
そう断言した。
シュラに向けられている眼には強い力に満ちている。
けれども、こちらを探るようでもある。
百パーセント信頼しているわけでもないってことか、とシュラは思った。
無理もない。
もしも立場が逆であれば、自分がアーサーを百パーセント信頼したかどうか、わからない。
ふと、シュラの頭に奥村燐の姿が浮かんだ。
燐が目指しているように、聖騎士には彼のようなタイプが一番いいのかもしれない。
しかし、そうなることがあるとしても、先の話だ。
シュラは軽く笑う。
「……この貸しは高くつくぞ」
貸し。クリスマス休暇の取り消しのことだ。
つまり、承諾したと遠回しに伝えた。
「わかってる」
すぐに察したらしいアーサーが応えた。その顔には笑みが浮かんでいる。さっきよりも明るくやわらかな笑みだ。
「じゃあ、アタシはなにをすればいのか具体的に話してくれ」
「ああ」
それから、おたがいスッと真剣な表情になり今後のことについて話をする。
しばらくして話が終わって、シュラは部屋を出た。
部屋の扉を閉め、廊下を歩き始める。
少しホッとした。
そのあと、雪男を思い出した。
クリスマス休暇は取り消しになった。
逢えなくなったと連絡しなければならない。
シュラは歩きながら、ため息をついた。