聖なる夜
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冬の冷たい夜気が大地を凍らせ、それが靴底を越えて身体を駆けあがってくる。
ただでさえ寒いのに、こうしてじっと立っているといっそう寒い。
シュラの周囲には祓魔師が五人いた。
そのうちのひとり、シュラの正面にいる祓魔師は地に伏している。
上一級祓魔師である彼の耳はとがっている。
悪魔落ちした証拠、だ。
その眼は閉じられている。意識を失っていた。
他の男性の祓魔師がふたり、彼のそばに行き、その身体を地面から持ちあげた。
これから彼を正十字騎士團ヴァチカン本部につれて帰るのだ。
シュラはその様子を無言で立ちつくしたまま眺めていた。
悪魔落ちした祓魔師と、彼を運ぶ祓魔師ふたり。そのあとに女性の祓魔師が続いた。
「……案外あっけなかったな」
隣に立っているアーサーが言う。
「オレとおまえのふたりだけでも片づけられたかもしれない」
淡々とした口調だった。
その横顔に表情は浮かんでいない。
アーサーはシュラの返事を待たずに歩き始めた。
シュラも歩きだす。
そして、アーサーの横に並んだ。
「アーサー」
そう呼びかけると、アーサーの眼がシュラに向けられた。
シュラはアーサーの顔を見て、問う。
「大丈夫か?」
すると。
「ああ」
アーサーは笑った。
「見ての通り、オレはケガひとつしていない。大丈夫に決まっている」
そういうことじゃない、傷を負ってないことぐらい知っている、問いかけたのは別のこと。
シュラはそう思ったものの、それを言わずにおく。
本当はアーサーはシュラが問いかけた内容を正しく察していて、そのうえで、あえて違う回答をしたような気がした。
だから、シュラは別のことを口にする。
「なぁ、アタシはもう帰っていいか?」
歩く足を止めた。
アーサーも立ち止まった。シュラよりも二歩ぐらい進んだところにいて、シュラを振り返る。
「ああ、かまわない」
あっさりと許可を出し、さらにアーサーは続ける。
「本来なら、おまえは今ごろクリスマス休暇を楽しんでいたはずだからな」
笑顔で冗談のように軽く言った。
それから、アーサーはシュラに向けていた顔を先を行く者たちのほうに向けた。
その右の手のひらが肩の上まであげられる。シュラに手の甲が向いている状態で、左右に振られた。
アーサーは右手をおろすと、すぐに歩き始めた。
オーダーメイドの服を着た背中は広く、真っ直ぐに伸び、堂々としている。
それをシュラは見送る。