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聖なる夜

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頭には今回の一件についてのことが浮かんでいた。
正十字騎士團ヴァチカン本部へと運ばれる祓魔師が悪魔落ちしたのは、聖騎士であるアーサーに対して鬱屈した思いを抱いていたからであったようだ。
彼は優秀な祓魔師だった。しかし、アーサーと比べると、かなり差があった。アーサーの上に立つどころか、ライバル視されることもないほどだった。
やがてアーサーが最強の祓魔師の称号を得てから、その聖騎士としての行動に、強い不満を持つようになったらしい。
アーサーは悪魔に対して冷酷ともいえる態度を取ることがある。それに、アーサーの採った策が最善ではない場合もあった。
けれども、彼はそうした不満や鬱屈を完全に隠しきって、正十字騎士團ヴァチカン本部の中枢で、アーサーの近くで、優秀な祓魔師として働いていた。
だから、彼が悪魔落ちしたことに、つい最近までだれも気づかなかった。
シュラは思う。
自分だってアーサーに対して不満がある、と。
アーサーの行動に納得がいかなかったことは一度や二度ではない。
でも、それはしかたのないことではないだろうか。
聖騎士でありながらひょうひょうとしていた藤本獅郎にしても、周囲の評価は大きくわかれている。
シュラにとって獅郎は恩人であり師である。だから、どうしても獅郎の側に立たずにはいられない。だが、それでも、獅郎が聖騎士に最適であったかどうかわからない。獅郎が一度も判断を間違わなかったとは思わない。
ああすれば良かった、というのは、結局のところ、あとになってから言えることだ。
様々な選択肢があることが判明してから、いや、様々な選択肢があることがわかっていても、その中から最善のものを絶対に選べる人間なんているのだろうか。
それでも他人は責める。
しかし、本人だって自分を責めているかもしれない。
シュラは遠ざかっていくアーサーのうしろ姿を見て、思う。
大丈夫なんだろうか、と。
アーサーはたしかに強い。
でも、強くて強くて強い、強いだけの人間なんて、きっと、いない。
百パーセントではないにしろ信頼していた相手が自分に対して不満と持ち、それが理由で悪魔落ちしてしまった。
平気であるとは思えない。
シュラはアーサーのうしろ姿から眼をそらした。
心配している。
けれど、アーサーは答えをはぐらかした。心に踏みこまれるのを避けた。そんな気がした。
ひとりで耐えるつもりなのかもしれないし、支えてくれるだれかがいるのかもしれない。
少なくとも今の自分にできることはなさそうだ。
シュラは歩きだす。
アーサーたちが去っていったのとは別の方角に進む。
家に帰るのだ。
シュラの帰る先、借りている部屋のあるアパートメントは、ヴァチカン市国ではなくローマにある。
とはいえ、ヴァチカン市国の近くにあるので、ここから歩いて帰ることができる。
夜の帳のおりた中、シュラは吹く風に体温を奪われながら進んでいく。
ふと、思い出す。
さっきアーサーは、本来ならおまえは今ごろクリスマス休暇を楽しんでいたはずだから、と言った。
今日はクリスマスイブだ。
ヴァチカンの大聖堂ではクリスマスミサが行われているはずである。
大勢の人がつどい熱気に満ちている様子を想像した。
だが、シュラが歩いているローマの道は静かである。
クリスマスイブなので、いつもより早く閉まる店が多い。
今ごろは、多くの人は家族とともに過ごしてるのだろう。
しばらくして、帰る先であるアパートメントが見えてきた。
そのアパートメントのエントランス付近の道に、だれかが立っている。
長身の青年。
「え」
思わず、シュラは声をあげた。
眼を見張る。
これは現実なのだろうか?
眼のまえにある光景が本物であるのか、疑った。信じられないと思った。
けれども、自分の感覚ははっきりしている。肌に感じる風の冷たさが幻だとは思えない。
夢をみているのではない。これは現実だ。
だが、やはり、信じられないと思う。
「雪男」
名を呼び、近づいていく。
向こうもこちらを見ている。
黒髪で、メガネのレンズの向こうの瞳も黒い。その眼に戸惑いはなく、穏やかで優しい。
他人のそら似ではない。人違いではない。そう確信した。
作品名:聖なる夜 作家名:hujio