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K.K.P.#8 『 うるう 』二次小説

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 私の話を聞き終え、父はまず、悩みを打ち明けてくれたことに対し礼を言った。
 そして、しばらく考えてから、一言一言をかみしめるようにしてこう言った。
 本当に悪いことをしたと自分が思っているのなら、相手もきっとわかってくれるはずだと。
 でもそれだけじゃ不安だ、というのなら、自分が邪魔してしまっていたこと、相手が本当にしてほしいと思っていたことをしてあげて、相手を手伝ってあげたらいいんじゃないかと。
 父のアドバイスは分かりやすかった。そして、私にもできそうだった。
 私は父に礼を言うと、少しすっきりした気持ちで自室に戻った。
 そして、次の悩みに思考を巡らした。
 彼がしてほしいこと。
 それはすぐに見当がついた。
 でも、私はいったいどうしたら彼にそれをしてあげることができるだろう?

 その答えは翌日、学校での音楽の授業の際に見つかった。
 急に思い出したのだ。最近習った歌のなかに、兎を捕まえる方法を歌った歌があったことを。
 人が減る放課後を待って、私は行動を開始した。
 私は図書室に向かうと、通い慣れた音楽本のコーナーから目当ての一冊を抜き出す。
 そして机に座り、周りに人がいないことを確認してから本を開くと、楽譜を書き写し始めた。
 なぜこうも執拗に周囲を確認するかといえば、たとえば今やっている行為の理由を聞かれたりしたときに、ごまかしきれる自信が私にはなかったからだ。
 私は悪知恵が働くタイプではないし、嘘をつくのも下手だということは当時から自覚していた。
 だからこそ、森に入るところを見られない努力だけは怠らなかったのだ。
 残念なことに、その正直な性格の問題点を痛感する出来事がすぐに起きてしまったのだが…
 そんなに長い曲ではないとはいえ、本を探し楽譜を書き写すという行為には、それなりに時間がかかった。
 私は急いで森に向かった。彼は今日もあそこにいるだろうか、彼はまだ怒っているだろうか、彼はこの贈り物を喜んでくれるだろうか、そんなことを考えながら。
 そうして再会した彼は、なんだかものすごく様子がおかしかった。
 あんなにハイテンションな彼を見たのは、後にも先にもこの日だけだ。
 思わずポカーンとしてしまった私の態度は意に介さず、彼は言葉をまくしたてる。
 彼の言葉と行動はいまいち要領を得なかったが、話を私なりに整理したところ、どうやら彼がここ数日作っていたのはお化けの「「うるう」を模したかぶりもので、それが今日いよいよ完成し、その完成品を誰か…というか私に見せるため、ずっと待っていたらしいのだ。
 確かにそのかぶりものは気持ち悪いぐらいによくできていたが…
 …つまり、彼の機嫌はすでに治っていたということなのだろうか?
 ともかく贈り物を渡すなら今だろう。
 そう思った私は意を決して、それを彼に渡した。
 彼は怪訝そうな顔でそれを受け取ると、歌詞を読み上げる。
 そして、なぜこれを持ってきたのかと私に問うた。
 説明をしながら、私はだんだんといたたまれない気持ちになっていった。
 薄々気づいてはいたのだ。これは彼が求めているものではないと。
 これは兎の捕り方を歌っているのではなく、兎が捕れたことを歌っているのだと。
 説明し終わり、そのままの勢いで帰りそうになった私を彼があわてて引き留めた。
 そして、私の贈り物を大事そうにポケットにしまうと、森の奥へと私を手招いた。
 きっと、彼が長い時間をかけて踏み固めてきたのだろうと思われる細長い道を歩む。
 道はやがて開け、そこには、決して広くはないがよく手入れされた畑が広がっていた。
 彼は自慢げに畑を案内してくれた。
 大きく青々とした葉や、瑞々しくまるまるとした実、それらは見ただけで、きっととても美味しいのだろうとそう感じるような野菜たちだった。
 そこで彼は、自らの言葉が過ぎたことの謝罪をし、私の贈り物に対する礼をした。
 そうして私たちは、彼が丁寧に育てた野菜を二人で仲良く並んで食べた。
 私たちは、仲直りをしたのだ。
 それからしばらくの間、私たちの間にはなにも起こらなかった。
 毎日私が森に通い、彼が出迎え、他愛ない話をし、たまに私が穴に落ちて彼が引き上げる。
 相変わらず、私の「友達になってほしい」という願いは叶えられることはなかったが、すでに私たちの関係は友達といっても差し支えのないものになっていたと思うし、少なくとも私はそう信じていた。
 それは、とても平和な日々だった。とても楽しい日々だった。
 それがいけなかった。私は油断し始めていたのだ。
 季節が徐々に秋へと変わっていき、風が肌寒く感じられるようになった頃。
 ついにあの日が訪れた。

 その日は朝からおかしかった。
 クラスの空気がやたらとそわそわしていた。
 そしてそのそわそわは、明らかに私に向けられていたのだ。
 とてつもなくいやな予感がしたが、気づかない振りをした。
 お昼休みになり、給食を食べ終えた私が教室を出ようとすると、親友であったガキ大将の彼が、笑顔で私の前に立ちはだかった。
 予感が当たったと思った。
 親友は単刀直入に、森のことを聞いてきた。私が楽しそうに森に通うのを数度目撃し、あれだけ怖かった森になんと興味がわいたのだという。
 おそらく、彼を含め、友人たちの何人かが、私の森へ行く様を目撃していたのだろう。
 そして、きっと昨日あたりに皆で相談したのだ。森のことを私に聞いてみようと。
 その際に、私ともっとも仲が良く、クラスのまとめ役でもあった親友がその役を買って出たのだろう。
 クラス全体がそわそわしていたのはこのせいだった。
 このとき、どんな風に返事をしたのか、私はよく覚えていない。
 きっと、「あとで説明する」だとかそんなようなことを言ったのだと思う。
 その後の授業は、内容がまったく頭に入ってこなかった。
 どうやって彼のことを隠し通すか、そしてどうやって、クラスメイトたちの森への興味を失わせるか、そのプランを考えるのでいっぱいいっぱいだった。
やがてホームルームが終わり、再び私の元にやってきた親友に、クラスのみんなが『そろったら』森に来るように伝え、私自身は平静を装って学校を出ると、一目散に森へと走った。
 クラスメイトをそろえるようにいったのは、そうすれば少しは時間が稼げると思ったからだ。
 そのとき考えているプランがうまくいけば、人数の大小は大した問題ではなくなるはずだったし、人数が増えることのリスクより、とにかく時間を稼ぐことの方が大事だった。
 私は校門を出た瞬間に走り出すと、ランドセルや鞄も持ったままでとにかく彼の元まで急いだ。
 薄いマフラーを首に巻き、なんだか思い詰めた表情で私を待ちかまえていた彼。
 彼も何か私に話したいことがあったようだったが、かつてない焦りようで走ってきた私の姿を見て、その話はいったん飲み込むことにしたようだった。
 私は状況を説明する。
 総勢三十人の子供たちが、もうすぐこの森にやってくる。
 それは、私が森に向かう理由…つまり自分を一目見るため。
 その話を聞いて、彼はかなり動揺したようだった。