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アリス振り回される(前編)

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前を歩くブラッドが急に立ち止まりアリスに向き直った。目の前でポンと一つ手を叩くと、ブラッドと周囲の景色が一瞬揺れたように見えた。

「ええっ?」

アリスは自分の着衣が一瞬にしてティードレスに替わったのを見て驚く。狐に抓まれた様で声が出ない。

「お気に召したかな」

少し光沢のある紅茶色のドレス。まるでティーカップを逆さにしたように腰から膝丈まで広がる。胸元は鎖骨が半分隠れる程の円くシンプルなカット。七部袖のギャザーの先は優雅な花弁の様に広がる。頭のリボンはオーガンジーに替わっていた。ハイヒールも前回のようなピンヒールではなく、歩き易い。
いつもの可愛いエプロンドレスよりもずっと実年齢に似つかわしい装いになった。
思わず左手を確認する。前回はダイヤの指輪に気付かず堂々と披露してしまい、これまた誤解の一因になったのだ。全く以って油断がならない。

「君が私の婚約者でいてくれる最後の席だからね、少しくらい私の趣味に染まってくれても良いだろう?」

「ええ、まぁ。」

このくらいなら目くじらを立てるほどの事でもない。一歩踏み出そうとすると、ブラッドが手を差し出してきた。

「大丈夫よ。」

「婚約者に恥を掻かせないでくれ。」

口の端に笑いを浮かべた、何処か寂しげな表情を作る男。抵抗を諦めてフッと小さく溜息を吐くと、心の中でこれで最後と言い聞かせながらブラッドの手の平に自分の手を重ねた。



広大な庭の一角。大きめの長いテーブルに白いクロスを掛け、色とりどりの菓子が並び、既に準備は完璧な様に見える。メイドは女王に招待客の到着を告げ、少し離れた席に腰掛けていた女王はすぐさま立ち上がると、歓迎の表情で近づいて来た。

「お茶会にご招待いただき大変光栄ですよ、女王陛下。」
「こんにちは、ビバルディ。」

いつもの気だるげな調子のブラッドと対照的に、笑顔で小さく手を振りながらアリスはビバルディに挨拶をする。

「アリス! おお、よう来た。待って居ったのじゃ、そなたが来るのを。帽子屋、お前も偶には気が利く男よの。」

「お褒めに預かり光栄ですよ。」

二人のやり取りに慌てる。

「え・・、ビバルディが招待したのはブラッドでしょ。私はオマケ・・」
「何を言っておる! それは形式上に過ぎぬ。今日のわらわの真の招待客はそなたぞ。それにしても、今日のドレスは可愛いではないか。とても似合っておる。」

褒められたことに礼を言う暇も無く、ビバルディの両腕がアリスを抱き締め、濃厚な薔薇の香りに包まれた。女王の豊満な胸がアリスを圧迫する。どれほど自分を歓迎してくれているのか理解できるだけに複雑だ。今日の自分はブラッドのお供である筈なのに、主客より歓待されるとあってはブラッドの立場が無いのではと気を使う。しかし、自分に引き付けておく事が今日課せられた役割りでもあるわけで、複雑だ。
ブラッドから引き離し、早々に自分の直ぐ近くの席を勧める女王。先程まで何事か苛々と声高に指示を出していた人物と同じとは思えないほどにこやかだ。ブラッドは二人から一番離れた席に着く。

アリスは、何故か母のことを思い出す。お客様を迎える前の母はいつも忙しく立ち振る舞い、使用人への要求も厳しかった。まるで先刻のビバルディのように。幼いアリスは家に客が来る意味も、母が準備に細心の気遣いをする理由も知らず、準備期間も含め窮屈な数日を過ごさねばならない事が苦痛だった。妹たちよりは状況を理解している姉が、いつもアリスとイーディスを大人しくさせ、面倒を見る役にまわる。自分たちよりお客に気遣う両親のことは今でもとても不快な記憶として残る。

「ビバルディ、こういう席を取り仕切る事ってお城でも女主人がするものなの?」

「ほほほ・・・何時もではない。今日は特別にな。お前の来る日の茶会はいつも楽しみでな、準備にも熱が入ろうというものぞ。最近、足が遠のいておるのは帽子屋のせいか?」

「まぁ・・・時計塔の時よりは遠くなっちゃったものね。ん~、此処へ来ることを邪魔してる訳じゃないと思うけど。」

二人の視線は離れて座るブラッドに注がれる。紅茶に目がない彼は、既に城のメイドに紅茶の抽出について注文を付けている。
最初こそ一人離れた席のブラッドに気を使っていたアリスだが、彼はマイペースでお茶を楽しんでいる風情で、徐々にビバルディとの会話に意識が集中し始める。テーブル上の菓子を二人で順に食べ比べて、紅茶に合うお菓子ランキングという子供染みた内容から、女性らしい美容の話題、街で見かけた服や小物の話等々尽きる事無く展開してゆく。ブラッドの存在自体を忘れて話に興じていた時だった。

「お嬢さん、そろそろ失礼しよう。」

「えっ!? どうしたの、もう帰るの?」

「ああ、詰まらない。」
「ちょっと!子供じゃないんだから。」

招待主のビバルディの目の前で失礼にも程がある。アリスは慌てた。

「ならばお前だけ帰れば良かろう、帽子屋。アリスまで巻き込むな。」

眉間に縦皺を刻み不機嫌な表情の女王が、ブラッドを見上げ睨みつけながら怒りを露わにする。当然といえば当然だ。ところが自称紅茶好きの男は更に言い募る。

「これは女王陛下。恐れながら申し上げるが、この城の蔵する紅茶はどうにもお寒い品揃えのようだ。紅茶好きを自負して憚らないこの私には、いやはや全く以って詰まらない。今日は随分と期待してやって来たんだが、これでは興醒めだ。こんな詰まらない紅茶しか入手出来ない無能な者の耳・・・いや首を即刻刎ねることをお勧めしたい。」

大げさな言い回しと表情と身振りで落胆振りを強調する。

「お前、無礼であろうが。誰に対して物を申しておるのじゃ。お前こそ首を刎ねられたいのか!」

「それとも、茶会に人を呼びつけておいて出し惜しみでもしているのかな。」

尚も挑発的なブラッドに、流石のアリスも青くなる。敵領土で騒ぎを起こせば形勢不利なのは自分ではないか。何を考えているのか。ついにアリスは立ち上がると、ブラッドの袖口を掴んでテーブルから引き離す。不機嫌な婚約者を連れ、話し声が聞かれないような距離まで離れると、

「ちょっと、ブラッド! どういうつもりよ? 喧嘩でもするつもり?」

「・・・何故私が悪者なのだ。客をもてなす気が無い茶会など詰まらないと正直に言っただけだろう。」

「もう! 本当になんて子供染みたことするのよ。馬鹿!」

「婚約者に向かって馬鹿とはなんだ。ああ、とにかく帰るぞ、お嬢さん。 帰ってお茶会のやり直しだ。」

嫌がるアリスの腕を掴み無理に帰路に着こうとする二人の側に、いつの間にかビバルディが立っていた。

「帽子屋、お前の目当ては限定農園のあれか? それなら今準備させておる、席に戻れ。」

呆れたような声でそう言うと、アリスの手を握り、真っ赤なドレスの裾を翻しテーブルの方へ戻ってゆく。ブラッドもそれを聞くと不承不承先程の席に戻り始めた。

「どうじゃ?アリス。」

「う~ん。ごめんなさいビバルディ。凄く貴重なお茶をいただいておいてなんだけど、香りがさっきと違うってこと位しか判らないわ。あ、でもとても美味しい紅茶ってことは確かよね。」