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アリス振り回される(前編)

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「無理矢理関係を迫られたり、脅されたり、暴力振るわれたり。あんな所に居る貴女を想うだけで僕の気が休まる間もありません。」

「それ、ペーターが言うの? 私に一番酷い事してるの貴方じゃない。こんな風に無理矢理キスだって――んんっ、嫌っ!」

今度は強く拒否してみる。まだ不満そうなペーターに向かって少し抗議するような口調になる。

「貴方が心配しているブラッドとは、エスコートされる時以外で手を握ったことも無いんだけど?」

「本当に?」

ペーターは愛しい人が不埒な真似をされていないと知って、嬉しそうにするどころか眉根を寄せて酷く不機嫌になった。そのままアリスから離れると、机上で何事か走り書きをしたメモ紙を二つ折りにしてアリスに渡す。

「早く出て行ってください、アリス。僕の気が変わらないうちに。」



ビバルディのお茶会を堪能できたブラッドは機嫌が良さそうだ。空の色が茜色から青に変わった時点でお開きになったお茶会の帰り道。
アリスは迷っていた。後ろめたい気分で手に入れた情報なんて要らない。このまま捨ててしまいたい。でも、ブラッドの先程の表情を思い出すと、無下に出来ないと思うのだ。自分の紅茶コレクションの中に加えたいに決まっている。その情報がアリスのポケットに入っているのだ。

(どうしよう・・)

アリスは城の敷地内を歩く間中、一言も声を発しなかった。始終何かしら思い詰めた様子を見かねたブラッドが声をかける。

「お嬢さん、まだ先ほどの事を怒っているのかな?」

「え? 何か言った?」

とぼけているわけではなさそうな、しかし確実に心此処に在らずのアリスに溜息を一つ吐くと、

「お嬢さんは私と居ても、いつも心は此処に無いのか。全く以って寂しいね。」

「ごめんなさい、ちょっと考え事を・・・」

「それは、誰のことなんだ。」

ブラッドの微妙な声の変化がアリスにも伝わる。

「誰の事って、強いて言えば貴方の事かも。」

「ふん、どうだか。」

アリスは隣を歩く男を見上げ、少し拗ねた様なブラッドの表情を見て思った。この紅茶店の情報は、紅茶好きな家主への単純なプレゼント。あの嬉しそうな顔をもう一度見てみたい気もするから。

「あのね、さっき城のメイドさんから美味しい紅茶のお店情報を聞いたの。でも昼ってブラッド何時もだるそうじゃない? だからちょっと考えてしまって。」

「ほぉ、お嬢さんの情報網か。興味あるね。」

「今から行ってみたい?」

「当然、行くべきだろう。」

というブラッドの返事に、アリスは先刻ペーターから渡された紙を取り出す。書いてあるのは住所だけだった。以前、時計塔に居たアリスには大まかな土地勘が有る町で、割合簡単に一軒の家の前にたどり着いた。ちょっと寂れた普通の一軒家で、紅茶店を標榜する物は一切掲げていない。


「お嬢さん、この店のことは誰から聞いたんだ。」




☆ 3.アリスと不思議な紅茶店


近づいてよく見れば、この普通に見えた一軒家が商売をしているとはとても思えない。人が住んでいるとか使っているといった活気が全く感じられないのだ。たまにある、知る人とぞ知る隠れ家的お店の要素は全く無いといっていい。
敷地内の樹木が生い茂り、家屋に迫る勢いだ。訪問者を拒むように閉じられた古びた小さな門扉。そこから建物との間のおよそ客を迎える気があるとは思えないワイルドな前庭。アリスの膝丈以上に伸びた雑草が、細い獣道の様に曲がりくねりながら踏み倒された跡がある。辛うじてそれだけが唯一、此処に何かが通ったと思わせる痕跡だった。アプローチの向こうに玄関ドアが見えるが、これとて貧相な一枚ドアだ。一寸腕力に自信の有りそうなエリオットやエース辺りならノックの衝撃で内側に倒れるのではないかとすら思われる。
誰を連れて来ても今直ぐに帰ると言われそうな、言われても仕方が無いような場所を見てアリスは落ち込んだ。

「耳の長い知り合いのメイドさんにでも聞いたか。」

「・・・・・」

ブラッドの皮肉にアリスは応えない。そんな彼女の肩を抱くと、もう片方の手で門扉を開けて敷地内に入ろうとするブラッドにアリスは驚く。

「ちょっと、入るの?」

「なんだ、此処が上手い紅茶屋だと教えて貰ったんだろう。」

「貴方には悪かったわ。無駄足踏ませちゃって、ごめんなさい。」

「ふふ・・本当に無駄足なら覚悟しておくことだ、お嬢さん。」

そう言いながらブラッドはアリスを抱き上げると、敷地内に足を踏み入れてゆく。アリスはブラッドの言う覚悟の意味について考えて暗澹たる気持ちになる。どうせ自分にとっては陸でもない要求に決まっているのだから。確かめるも何も答えは見たとおりで、再確認という行動の後の、自分の処遇の方が気になる。


「おやこれは珍しいお客様だ。いらっしゃい。」

それはブラッドの事を言ったのか、余所者と知って出た言葉なのか、はたまた来客自体が珍しいという意味なのか不明なまま玄関内に招き入れられる。ノックもしていないのにドアが開き、にこやかな初老の男性が出迎えてくれたのだ。アリスを下ろすと、ブラッドから先に入る。
思わず玄関ドアの外を振り返り見るほど、内部の様子は違っていた。正面に見える階段は、階上に向かう以外に、この建物には地下が有ることも教えている。床、階段の踏み板、手すり、漆喰の壁に納まる柱も窓枠も天井も長年丁寧に使い込まれた木質だけが持つ艶が有る。

「其方の殿方は御用の向きがお有りのようだ。待っている間、お嬢さんは私とホットチョコレートでも如何かな?」

「え?」

ホットチョコレートって、紅茶屋では無いのか。一度希望を持ったアリスは、再度落胆する。いや待て、紅茶の店といっても茶葉の卸しを専門にしている所かもしれない。だから主は此方を買い付けに来たお客だと思っているのだろう。ここの主と思われる男は、先程から此方が一言も発していないにもかかわらず、妙な言動ばかりだ。それなのに、警戒心を持ち始めたアリスをおいてブラッドは階段の方へゆっくり歩き始める。

「此方へどうぞ。」

階段左手の方へ数歩進みながら、主はアリスを促す。ブラッドの階段を踏みしめる音を聞きながら、主の後に付き歩き始める。正面には既にお客を迎える為の、座り心地の良さそうなソファが見えている。驚いたことに、コーヒーテーブルの上には既にホットチョコレートが湯気を立てており、主の他に使用人でも居るらしかった。
通された部屋は、玄関ホールと扉のような物で仕切られているわけではなく、主がノックの前に玄関ドアを開けたのは、来客の気配を感じたからなのだろうとアリスは思う。

「冷めないうちに召し上がれ。」

柔らかい物腰に、警戒心は薄らいできたものの疑問が解けたわけではない。勧められたチョコレートを息を吹きかけ少しづつ飲みながら、アリスは右手の一人掛けのソファに座る主を見た。

「お嬢さんは、時間の花という言葉を知っているかい?」

唐突に話しかけられ、一瞬何の事かと思う。何処かで聞いた事があるとは思うのだが、余りに急で記憶を手繰るのに時間が掛かる。

「それを見たことがあるのは小さい女の子一人だけなんだよ。」

「あ!」