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グッバイ・パピーラブ

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その4



「マスター、大丈夫か?」
「……えぇ、少しましになってきました」
 ゴンドラの窓際にぴったりと寄りかかっていたら、バーナビーは正面に座るトラに気遣わしげな視線を受けた。確かに乗り物酔いからまだ完全に回復はしていないが、バーナビーが沈んでいる理由はそれだけでは無い。 
方やヒーロー、方やメカニック兼研究員の休みが揃う事はまれで、最近は一緒に外出する事も少なくなってきていたから、二人きりでは無かったがこうして遊びに出かける事が出来て今日は嬉しく思っていた。けれどもバーナビーと虎徹は恋人同士である。観覧車で二人きり、デートでは定番のシチュエイションに夢を見たっていいではないか。そうバーナビーが観覧車にほのかに思いを馳せて虎徹の手を取ろうとしたら、その間際、逆の手をウサに引っ張られたらしく虎徹はするりとゴンドラに引き込まれていってしまった。残されたバーナビーは、トラと後に続くしかなかった。
 せっかくのチャンスをふいにされたら、高度が上がってミニチュアみたいになった眼下の景色を人がごみの様だと称しても仕方が無いと思う。
「マスターはやはり、コテツと一緒の方が良かったか?」
「……」
 妙に確信を突いた言葉に、ぎくりと肩が揺れる。人間の表情から感情を読み取れるようになったのか、また独自に成長しているようだ。彼らの感情の芽生えは想定外の事象だったが、あまり人間に近づきすぎるのもどうか。バーナビーは眼鏡を押し上げて冷静を装いながら、話の矛先を逸らす。
「トラこそ、虎徹さんと一緒が良かったんじゃないですか? 今日も虎徹さんと一緒に来たかったんでしょう?」
「私は…コテツと来られただけで良かったから」
 そう嬉しそうに話すと、トラは俯いてしまった。まるで恋でもしているようなトラの柔らかな表情に、バーナビーは目を見張る。探るだけのはずだったのに、やはりウサと同じになってしまうのかと眉を顰めた。
 そもそも何故このアンドロイドたちは虎徹に異様に懐くのか、ずっと疑問に思っていた。設計もプログラムもアンドロイドとしては完璧だったはずなのに、頻発する理論では証明できないバグ。ならば原因も実証できないものなのではないかと、バーナビーはとある仮説に思い至った。
「……どうしてあなた達が虎徹さんに懐くのか、解ってきました」
 俯いていたトラが顔を上げて、バーナビーを見つめてくる。あまりに真っ直ぐな瞳に、バーナビーはつい視線を窓の外に移してしまった。
「これは僕の推測ですが、あなた達には僕の感情が影響しているんです。厳密に言えば、僕が虎徹さんを想う感情です。刷り込まれたそれを自分の感情だと錯覚して虎徹さんに好意を持ち、簡単に懐いた。つまり、あなたが虎徹さんを想う気持ちは、あなたの本当の感情ではないんです」
 感情という不確かなものの影響なんて証明出来る気がしないけれど、“そう”だとすれば説明がつく。AIの発達というだけでも想定外だったのに、アンドロイドが人間に恋情を抱くなんて。
「錯覚…?」
 戸惑う様にトラの顔が曇って、バーナビーは瞬時に後悔した。言った所で今更、その感情を止める事は出来ないのに。
「マスターの言う事が事実なら、それは、とても悲しいと思う」
「トラ、これはあくまで僕の見解です」
 しょんぼりと項垂れるトラに後ろめたさを感じて、バーナビーは慌てて補足する。虎徹と同じ顔で、泣きそうな顔はしないでほしい。腕を伸ばしてトラの頬に触れると、ぴくりとトラは身じろいだ。構わず体温の感じられない頬を宥める様になぞってやる。困惑気味に見上げて来るトラの上目使いは、さらに心臓に悪かった。

作品名:グッバイ・パピーラブ 作家名:くまつぐ