遠かったあなた。
「………? どうしたの?」
先輩はすぐ横にたつ僕を不思議そうに見上げた。
「もうひとつ
もうひとつ、あるんです。」
その夢の中で、僕はあの遣隋使の小野妹子だった。
そして貴方は、あの人にそっくりな貴方は
「聖徳太子、だった」
沈黙が、またやって来た
ぽかんとした先輩の口角が、少しあがった。
「おもしろいな、小野君は。」
ぷっ、と吹き出した先輩。本当なのに。
あの変なおっさんが聖徳太子だなんて信じられないけど、確かに僕は彼を聖徳太子として認識していた。
そして彼は僕を妹子と呼んだ。僕はそれに答えた。
でも、おっさんが先輩に似ていると言ったのは、顔もそうだが、青いジャージを着ていたからだった。
浮いている、と目覚めてから思った。僕が勝手に先輩を当てはめているんだと思ったが、もしそうならわざわざ老けさせる意味が無い。
ありえない。
でも。だったら、どうして?
もしかして、もしかして。いやそんなはずは……
「小野君。」
「!」
ごちゃごちゃ考えていると、先輩が声をかけてきた。
「大丈夫? 何かあったのか?」
「え……」
顔に手をあてると、何か冷たいものに触れた。
汗? いや、これは
「(泣いて・・・?)」
「つらいことがあったなら、無理しなくていいぞ。
部活、行くんだろ? 早くいかないと、終わっちゃうぞ ツナが大好き小野妹子。」
先輩はそう言ってイタズラっぽく笑った。
年上のくせに、幼く見えた。
ていうか別にツナ好きじゃないし。嫌いでもないけど。
でも、なんだこれ。
「……はい。さようなら、太子。」
この感覚。
暖かい春の風が、僕をせかすように吹いていった。
◆◆◆◆
「遅いぞ小野~!」
「ごめんごめん!ちょっと話し込んじゃってさぁ!」
「話?誰と?」
「副会長だよ」
「あの変人的に頭いい人か…。なに話してたんだ?」
「変人って……。
……あれ?」
「どうした?」
「いや…
なに、話してたんだっけ?」
なにか、大事なことを 思い出した気がしていた。