夢の中で見る夢《仮》
―人間とは言いがたい姿になっているかもしれない。
動物になっている可能性だってある。詳しいことは、神ではないから分からない……―
「が、そんな予感は確かにあると」
―こういう存在になると、第6感がさえるものよね―
―そうだな。あの時にさえていて欲しかったが、仕方ない。人間は完全ではないのだからな―
「さて、そんじゃ、さっさと始めちまおうぜ」
彼が威勢の良い言葉を言えば、夫婦は笑顔で頷いて。
その身体が光った瞬間、彼は見たこともない喧騒の中に低い視点でたたずんでいた。
人間の足が目の前を通り過ぎる。
自分の体を水溜りで見て、猫になっていることを知ると。
自分の初めにいた場所を確認してから周りを覚えて、彼女を探す。
四肢で走るのは奇妙な体験だった。
そうして、建物から出てきた少女を見つけて。
走り出す。
少女が追いかけるのを感じつつ、時折後ろを確認して。
待てといわれても待たずに走り続けた。
そうして、元いた場所にたどり着き。
少女が傍の黒い穴を見下ろして。
彼はそこに入るように促した。
男が着て邪魔をされるかとも思ったが。
彼女は男を見ると吹っ切れたように言葉を投げて、闇にその身を落とした。
瞬間、彼と黒い穴もその場から消えうせる。
視界は真っ暗だ。
あの夫婦の姿も見えない。
―ありがとう、感謝しているわ―
―どうか、あの子がひとり立ちできるまで……出来ればで良い。宜しく頼む―
声だけが、か細く聞こえる。
【私たちはもう、消えてしまうから】
代償は大きい。
何をするにも料金のようなものは派生する。
海賊の彼でもそれは理解していた。
夫婦は自分らの魂の存在より、娘の人生を望んだ。
それだけのこと。
黒い世界が徐々に、徐々に白んで。
彼らは瞳を開けた。
作品名:夢の中で見る夢《仮》 作家名:スノイリス