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スノイリス
スノイリス
novelistID. 37340
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夢の中で見る夢《仮》

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Act.01 邂逅と異世界での一日



「「…………」」

目を開いて、お互いの視線に入ったのは、お互いの顔だ。

柔らかな布団の上で、長い白髪の少女は座り込んで枕に頭を乗せている男の顔を見上げていた。
また、彼は枕から顔を少し浮かして少女を見下ろす。

あの夫婦の言ったとおり。

彼女は“多大なるリスク”と言うものを受けているようだった。

見た目は人間だが、大きさが人間ではない。
まるで人形だった。

「……あー、えっと、雪姫」

「ッ!!……しゃ、べった」

「喋れるに決まってんだろ。お前がちょっと今変なことになってるだけだ。俺はいたって正常だぜ?」
「……変?……それより、なんで名前」

「あん?あの穴に落ちる前にお前自分で男に名乗ってたろうが」

「……あの場、いた……?もしかして、あの、ねこ?」

「聡いな。何でか猫になってたんだよ。お前の両親に頼まれてお前さんを連れてきた」
「!父様、母様に……会った……?」

「あの男の傍においておきたくないんだとよ」

「……そ、っか……父様、母様」
「だが、お前をこっちに連れてきたことでもう魂はいねぇみたいだが」
「……うん」

「俺は長曾我部元親。
 気楽に元親とでもよんでくれや。お前が元の大きさに戻るまでは世話してやるぜ?約束だからよ」

「そっか……分かりました……お世話になります」

「おう!任された!」

起き上がり、遥か高みから見下ろされると彼女はクラリとめまいを覚えるが、自分が異常なのを思い出して何とか倒れるのは耐える。
しかし。

「アニキ!アニキ!起きやしたか!?」

「やべ、ちょっとこっち来い!」
外から響いた声と足音に、元親が手のひらで包める少女を捕まえて掛け布の中にその手を突っ込む。

彼女は瞳を瞬かせるが、人肌に身体全体を握りこまれることが初めてで固まってしまっていた。

「同盟国の毛利がまた文をよこしてきたんですが」
「適当にまた送ってくれ。どうせ碌な内容じゃねぇだろ」

元親の言葉にわかりやした!と元気良く、というより威勢良く言葉を上げてドタドタとまた忙しない足音を上げて部屋から居なくなる誰か。
元親が息を吐いて彼女をつかんでいる手を引っ張り出す。

「あー、悪い。驚かせたか?」
「……人間の手って」
「あ?」

「……人間の手って、こんなに……温かかった……かな」

「そりゃ、体温あるからな。温いもんだろ?」
「……そう、かな」
「そーだよ」

彼女がぼんやりと元親を見上げながら言葉を投げれば、彼は返事をしつつ頷いて、彼女を文机の上に降ろす。
機巧の設計図やらが転がっているが、まぁ我慢してもらおう。

下ろされた彼女が周りを見回し、自分の足下にある一枚の設計図を見て丁寧に下足を脱ぐ。
両手に片方ずつ持って、ぺたぺたと機巧の設計図の全体を歩いて眺めようとしているのを見て、元親は。

「あまり積んでるとこ行くなよ?」

なんだか非現実なそれに小さく笑ってしまい、そのまま言葉を投げて立ち上がる。
彼女に背を向け、普段のように着替え始める。
それをなんとなく振り向いてみた彼女は瞳を瞬かせてからハッとして慌てて設計図に視線を戻し、その場に座って両手で顔を覆う。

PVなどで彼女は衣装を男性の前で脱いだりしたことはあれど、男性が脱ぐのを見るのは初めてで。

大きさの違いなど忘れてただ恥ずかしさに顔を染めていた。

「っと、あいつも連れてくからコレじゃ駄目だな……あっちにするか」

一人ごちる声に何のことだろうと振り返りかけるが、着替えだと思い出すとすぐに顔を元に戻す。
暫く衣擦れやら金具を止めるような音が響いて、やがて彼女の周りを影が覆う。

「おい。なにうずくまってんだ?腹でも痛いのか?」

「……着替え、終わった?」
「あ?着替え?……あ。あ~……うん、悪かった。
 とりあえず、時期に朝餉が来る。それ一緒に食って、それから出かけんぞ」
「……出かけ?」

振り向いた彼女が見た彼の姿は、どこかの貴族のような出で立ちで。
「……?」
「似合わないとか言ってくれるなよ?普段はもっと軽い格好してるんだが……
 今日からはお前さんがいるからな。隠せる場所のある服の方が、都合はお互いいいだろ?」

隠せる場所。

彼は彼女を服の中に隠して連れて行くつもりらしい。
まぁ、ポーチも何もないようだし、当然といえば当然だろう。

「隠れる、だめ?」
「駄目だな。女中や野郎どもも良く来るからよ。見つかる確率が高いぜ」

元親の言葉に彼女はそうか、と声を上げて。
やがて理解したと頷いて見せる。
物分りが良くて助かると元親が笑って、下足をはいた彼女をまたつかみ上げる。

それと同時に朝餉を女中が運んできて、彼は女中が出て行ってから彼女を膳の上に降ろす。

「……久々に見た。こんなしっかりした朝食……量、多そうだけど……」

「朝餉と夕餉は大体こんなもんだろ?」

「……昼は?」
「昼も食うのか?朝と夕、二回が基本だろ?」
「……私のところ、一日三食」
「マジか。すげぇな」

会話をしつつも彼は汁椀の蓋を外してその蓋の水気を手拭いで取り、白飯と魚と、少量乗せて雪姫の傍に下ろす。
大きさに思わず二歩ほど下がった彼女は、それを見てから元親を見つめる。

「優しい、ね?」

「そうか?任されたからには世話はしねぇといけねぇしな。いまんトコは義務だ」
いやみったらしくなく、サラリと苦笑交じりに言葉を投げる元親は本当に優しい人なんだろうと雪姫は考える。
食べるぞ、と言われた彼女は盛られた食事を見つめて、その前に座り。

「「いただきます」」

意図せず重なった言葉に二人そろってまた顔を見合わせて。
元親が笑い、彼女は目を瞬かせてから顔を伏せ、食べ始める。

両手で握るご飯粒は、熱かったが火傷するほどのものではなかった。














食事を終えれば、元親は彼女を上着の中に入れて右往左往移動する。
髪の毛を押さえて彼女が外を隙間から覗けば、工場みたいなところに行っていたり海の傍に行っていたり。

「……元親」
「お!?あ、あぁ、なんだ?」

人が居ないのを物音で確認して、彼女が声を上げれば元親も慌てて周りを見回し、彼女の居る辺りを少し開いて見下ろす。

「なにしてる人……?貿易商人?」

「そんなたいそうなモンじゃねぇよ。俺はなんたって、四国の鬼ヶ島にいる男鬼!
 西海の鬼、長曾我部元親!俺ぁ、海賊だ!」

「……鬼で、海賊、なんだ」
「おう。何だ、信じられねぇって雰囲気だな」
「ちょっと……海賊って、盗賊の集団みたいなイメージしかない、から……元親、違う気がするから」
「嬉しいねぇ。だが、海賊は本当だぜ?鬼はもちろん二つ名だが」

「……そっか。分かった……改めて、闇里雪姫。向こうでは……歌姫、やらされてた」
「知ってる。辛いなら言うんじゃねぇ」
ぐりぐりと指先で小さい頭をなでれば、雪姫は頭を両手で押さえてから元親を見上げて、また服の奥に戻る。

「もう暫く動くぜ?」

「耐える」
「頼もしいねぇ。人が居なけりゃ、また話す」

服を戻し、彼女を隠して元親はまた歩き出す。
揺れる暗い空間で、彼女は彼の体温を全体で感じつつ。
大人しくじっとするのだった。